ベトナムを旅するなら、世界遺産やリゾートとともに「食」も存分に満喫したい。宮廷料理から伝統料理、B級グルメまで。ベトナム料理は甘くもなく辛くもなく、そしてクセもなく、日本人に合うといわれている。インドでカレー攻めにあった人や、タイのココナツ味に飽きた人たちが食べたら、きっと生き返った気持ちになる味だ。
とりわけここフエには独特の食文化が息づいている。ベトナム料理の中でもご当地の地名が冠されているのは「フエ料理」だけ。その伝統料理が味わえるという市内のレストラン「Tinh Gia Vien」に行くと、民族衣装アオザイを着たスタッフが迎えてくれた。
アオザイ姿にはベトナム航空の機内でも出会ったが、街なかではもう中学生や高校生が制服で着ている以外には、高級ホテルやレストランでしかお目にかかれない。それだけに、食事の際にこの伝統ある民族衣装を身につけたスタッフに接待されるのは嬉しいものだ。
ベトナムの人たちって、どんな感じなの? 今回の旅の途中、東京の知人からそんなメールが届いた。とても一言では答えられない。「ベトナム人は日本人と似て勤勉だ」と言う人もいれば、別の人間は「しっかり監視していないとすぐに怠ける」と反論する。「旅人に対してみんな親切」と評価する人がいる一方で、「観光客とみるとみんな吹っかけてくるので、油断禁物だよ」なんて決めつける人も。人それぞれに個性があるのだから、自分の印象だけですべての人々を判断するのは避けたほうがいい。
実際、ホイアンやフエを歩いていて、いろんな個性に出会った。街なかの店で、品物を売ろうといつまでも食い下がってくる商売熱心な人と、呼んでも面倒くさそうに無視する店員と。社会主義の国だから、商売っ気のない人は国に雇われている“公務員”だったのだろうか? 最終日の夕方訪れたフエのアンクー市場では、ただただ値段を釣り上げようとやっきになっている若い売り子がいれば、少しだけほしいと言うと「それっぽっち? だったらこれ持っていきな」とタダでくれちゃう気前のいいおばさんもいた。
カメラを向けると、ある人は白い歯を見せてニコニコと満面の笑顔で応えてくれ、その横には手で顔を隠してしまう恥ずかしがり屋さんがいて──。1人ひとりがとにかく違うから、接していて飽きない。旅をすることがより楽しくなる。2つの世界遺産の街を歩き終えたいま、こんなにも人の個性の“違い”に触れた旅はこれまでなかった気がしている。
作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら各メディアにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとしても活動。
著書に『ボーイング777機長まるごと体験』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』『もっと知りたい旅客機の疑問50』『みんなが知りたい空港の疑問50』『エアバスA380まるごと解説』(以上ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)、『新いますぐ飛行機に乗りたくなる本』(NNA)など。
Blog『雲の上の書斎から』は多くの旅行ファン、航空ファンのほかエアライン関係者やマスコミ関係者にも支持を集めている。
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