家と家の隙間に、人ひとりがやっと歩けるくらいの路地がある。路地のところどころに井戸があるのも、ホイアンの街の特徴だ。トゥボン川沿いの道から路地を抜けて、ちょっと広い通りに出た。ここはチャンフー通りと呼ばれる、ホイアンの買い物ストリートである。ガイドブックを見ると「この辺りはかつて多くの日本人が住み、日本人町が形成されていた」とある。かつて──というのは、16世紀から17世紀初めにかけてだ。
とすると、この先にあるのが「日本橋」の名で知られる来遠橋(らいえんばし)だろう。水路にまたがった石の橋で、その上に家のようなものが乗っている。通りから敷居をまたいで中にはいると、床は板張りの造りだ。真ん中にはお堂がある。この来遠橋までが旧日本人町で、橋から向こうが旧中国人町。もう少し先まで足を伸ばしてみよう。
通りには刺繍の店が並び、奥で少女たちが細かな作業を続けている。手先がとても器用だ。しばらく見学していると、何軒か向こうからいい香りがただよってきた。お腹もすいたので、そろそろ昼食にしようか。「カオラウ(CAO LAU)」の看板がかかった1軒に入ってみる。
ホイアン名物のカオラウはラーメンの一種だが、麺に隠れてスープが見えない。いわゆる“汁無し麺”だ。たっぷりの野菜と麺を、ほんの少しのスープで食べる。ホイアンには代々100年以上もカオラウをつくり続けている店が多い。「カオラウ」の看板は街のあちこちで目につく。
「カオラウはベトナムでもほかの街にはない、ホイアンだけのものだよ」と店のおばさんが教えてくれた。「ベトナムの麺はみんな米からできていて、軟らかい。ホーもビーフンもそう。だけどカオラウは、どうだい、すごくコシが強いだろう。原料は同じ米なのに。その秘密は、街のあちこちにある井戸さ。ホイアンの井戸水には石灰分が多く含まれていて、この水でこねるとコシの強い麺ができあがるんだ」
路地を抜けるとき、ところどころで井戸を見かけたのを思い出した。ホイアンの人たちは井戸水が大好き。飲み水に、料理に、そして洗濯やシャワーにと井戸水が活用されている。
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