第49鉄 マルーン色の電車旅――阪急電車と能勢電鉄で行く妙見山杉山淳一の+R Style(4/6 ページ)

» 2011年06月07日 08時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

 現在の能勢電鉄は、妙見山参詣輸送より住宅開発による通勤路線の色合いが強い。とくに前出の日生エクスプレスは、日本生命と阪急電鉄が開発した大ニュータウンで、そこへのアクセス路線として山下駅から日生中央駅までの日生線を作ったほどだ。川西能勢口から乗った電車が日生中央行きだったので、そのまま日生中央駅に寄ってみた。駅前広場から見渡したところ、戸建て分譲住宅地が中心の高級住宅街といった雰囲気だった。

 その風景は能勢電鉄の本流、妙見線も変わらない。しかしこちらは歴史のある路線らしく川に沿い、線路は川のそばの低いところを通っている。駅名に「光風台」「ときわ台」とイメージの良い字が当てられ、「台」とつくように、住宅街は高いところにある。そのせいか、車窓から住宅街は見えにくく、線路のそばには自然が多く残っている。通勤時間帯の逆向きだから、乗客に通勤通学客は少ない。小さなリュックを持ったお年寄りが多い。賑やかだな、と思ったら、終点の妙見口駅にはもっと大勢のお年寄りが集合していた。ハイキングのイベントのようで、隊列を組んで坂道を登っていった。

住宅開発が進む中、自然が残されている
霊場、妙見山へ向かって走る
妙見口駅。大きな筍が500円など、地元の野菜が安かった

ケーブルカーと長いリフトで妙見参り

 道中に面白いポイントがいくつかあって、ようやく目的地の妙見山に近づいた。妙見口駅から妙見ケーブルの駅までは徒歩。休日ならバスがあるのだが、今日は平日だからなし。長くて緩やかな上り坂を超えていく。ゆっくり歩いて20分ほど。初夏の気候が良いせいか、苦にはならない。むしろ楽しい。このあたりはニュータウンではなく、里山の風景だ。山と田畑と小さな水路。途中で石灯籠の「常夜燈」もあって、妙見参りの歴史を感じさせる。

初夏の気候で思わず購入した黒豆アイス。丹波の黒豆を使用している。
里山を歩くと石灯籠の常夜燈を発見。妙見参りの歴史を感じる。
妙見ケーブルの黒川駅。住宅街のはずれにある。

 妙見ケーブルの下の駅は黒川という。そこから見上げると、かなりの急勾配である。線路延長は600m。高低差は229m。最急勾配は23度。鉄道の表し方だと424パーミルである。斜面を横切るように線路が敷かれていて、左手の景色がいい。もっとも、平日の朝の乗客は私と老夫婦の2組だけ。ほぼ貸切で全方位を見渡せる。

 線路脇の木は桜で、春には桜のトンネルができるという。谷間は能勢の里山で、かつては炭焼きが盛んに行われたところ。クヌギを使った「能勢菊炭」は、切り口に放射状の美しい割れ目ができるという。京都の茶席などで使われるそうだが、現在は1軒しか残っていないらしい。

こんな急勾配を上がっていく。
ケーブルカーは「ほほえみ」号と「ときめき」号

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