新型旅客機が誕生するまで──その開発・製造プロセスを追う秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話(1/4 ページ)

» 2011年05月16日 08時00分 公開
[秋本俊二,Business Media 誠]

マーケット調査が最初のステップ

 新しい旅客機を計画し、開発・製造を経てEASA(欧州航空安全庁)とFAA(米連邦航空局)から型式証明を取得するまでには、さまざまなプロセスがある。その最初のステップが、どんな旅客機をつくれば売れるかという綿密なマーケット調査だ。せっかくつくっても、その旅客機をエアラインが買ってくれないと意味がない。そこで航空機メーカーは、エアライン各社から要望を聞いたり、世の中の動きから将来こういう旅客機が求められるのではないかという市場予測を基に新型旅客機のスペック(仕様)を決めていく。

飛行機と空と旅 2007年7月に初めて完成形が披露された“ドリームライナー”ボーイング787(撮影:佐藤眞博)

 スペックとは、例えば1度に何人の乗客が乗れるサイズにするか、1回のフライトでどれくらいの距離を飛べる必要があるか──などだ。昨今はジェット燃料の高騰がエアライン各社の経営を圧迫している。その燃料価格の高騰に対応するため、どれくらい燃費性能のいい機体にするかも新機種の開発では重要なポイントになってきた。

 入念なマーケット調査に基づく初期の構想段階を経て、航空機メーカーは新しい旅客機の開発プランを作成し、エアライン各社に向けて最初の発表を行う。しかし、それで実際の開発がスタートするわけではない。次の大事な作業として、新型機を製造した場合に、はたしてエアライン各社は本当にその旅客機を買ってくれるのかを把握する必要がある。

重要な役割を担うローンチカスタマー

 「ローンチカスタマー」という言葉を聞いたことがあるだろうか? 航空機メーカーが新機種の開発・製造に踏み切るためには、それを導入するエアラインから「正式な購入計画がある」という確証を得なければならない。航空機の開発・製造には膨大な資金がかかるため、「つくったけれど売れなかった」というのでは、メーカーの企業経営は成り立たないのだ。

 そこで十分な規模(機数)の発注を事前に行い、その新機種生産計画を立ち上げる(ローンチする)ための後ろ盾となる顧客のことを「ローンチカスタマー」と呼ぶ。

飛行機と空と旅 エアバスA380のローンチカスタマーの1社がエミレーツ航空だった(出典:エアバス)

 ちなみにエアバスのオール2階建て巨人機A380の開発計画ではシンガポール航空とエミレーツ航空が、またボーイングが現在開発を進める次世代中型機787は日本のANAがローンチカスタマーとなった。

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