第39鉄 夏の青春18きっぷ旅(3)SLだけじゃない! 魅力満載の大井川鐵道杉山淳一の+R Style(4/7 ページ)

» 2010年09月24日 22時30分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

冷房なしの旧型客車に涼風とススが舞い込む

 客車に足を踏み入れるとムッとした空気。酷暑にもかかわらずクーラーがない! 冷房装置と言えば、高い天井でくるくる回る小さな扇風機だけ。大井川鐵道は機関車だけではなく、客車もSL時代の車両なのだ。それは正しい。機関車だけ古くて、客車が新品なんてバランスが悪い。だから旧型客車は正しい。それは理解できるが、暑さは苦手だ。ここも夏は避けるべきだったか……。

旧型客車のボックスシート

 いや、ここは前向きに考えよう。本来はこれがSL時代の夏の汽車旅だったんだ。SLの旅を体験するなら、こうでなくっちゃ! そう思ってボックス型の座席に座った。両腕を広げて、窓ガラスの隅にある爪切りのような金具を掴んでグイッと引き上げた。

 ポーッと汽笛が響き、ちょっと時差があってから、ゴッと音がして動き出す。すると、なんということだろう。窓から涼しい風が入ってくるではないか。駅のホームも暑かったはずなのに、これは意外。山の緑と大井川を伝わった風だ。汗に風が当たり、乾いていく時に体温を下げていく。扇風機に顔を近づけて「あー」と声を出すときの、懐かしい涼しさだ。停車中の印象は覆り、快適になってきた。昭和の夏の汽車旅も、そんなに辛くなかったのかもしれない。

 車窓は濃い緑の山並み。そしてお茶畑。こんもり繁った丸い畝が連なっている。夏山の景色は全国で見られるけれど、静岡では山の中腹までお茶畑が作られて、独特の風景だ。ああ、やっぱり夏に来て良かった。そういえば、暑い暑いと話していた人々の声も静まっている。車窓に大井川が現れると小さな歓声が沸いた。川が見えると車窓も涼しげだ。

 歓声が起きる場所は他にもある。トンネルだ。トンネルに入るとまず年配の人々が窓を閉める。少し遅れて、若い人たちのグループも窓を閉める。蒸気機関車から吐き出された煙が、客車の窓から入り込むからだ。年配の方は分かっていらっしゃる。こういう体験こそ、SL時代の夏の汽車旅にふさわしい。そして大井川鐵道にはトンネルがたくさんある。始めは誰もが窓ガラスを上下していたけれど、窓ガラスは重い。そこで、誰かがブラインドスクリーンだけを下げた。じつは、これだけでも煤よけには充分なのだ。これに倣って、ブラインド派が増えていく。そんな車内の風景も面白い。

途中で元京阪特急の普通列車とすれ違う

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