第19鉄 毎日走るミステリートレイン――快速むさしの杉山淳一の +R Style(3/4 ページ)

» 2009年11月29日 05時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

 武蔵野線のこのあたりは高架区間なので見晴らしがいい。荒川を渡ったあとは、雑木林や小さな丘が点在する武蔵野らしい風景になる。武蔵野線の電車は通勤仕様のロングシートばかりだけれと、快速武蔵野2号はボックスシートのため、旅気分が盛り上がってくる。そして最初の停車駅、北朝霞に停車する。ここは東武東上線の朝霞台駅が隣接しているので、乗り換えのお客さんも多い。しかし、お客さんたちはやや戸惑った様子である。いつもの通勤電車ではなく、古めかしい電車がやってきたからだ。この時間帯は通勤客ではなく、用向きで時々乗る人のほうが多い。だから突然やってきた見慣れぬ電車に困惑している。

荒川を渡る(左)。高架区間は武蔵野らしい風景が続く(右)

 失礼ながら、ホームに立ってこちらを見る人の表情を観察していると愉快だ。乗ってもいいのかと思う半面、これはなにか特別な電車だという顔。しかし車内は平然とした普段着の客ばかり……。大宮駅には大きな発車案内板があり、発車前にホームや車内のアナウンスも繰り返し行われた。しかし、ちょっと停車するだけの駅では周知されにくい。この列車の正体を分かっている人だけが乗り込み、不思議そうな顔をした人だけがホームに残る。そんな光景が、東所沢や新秋津でも繰り返された。

中央線に入ると富士山が見える

 新秋津を出た電車は地下に入る。この地下部分はとても長くて、新小平駅で息継ぎをするように空を見たあと、また地下を行く。そして次の謎の場所、西国分寺駅が近づいてくる。もう分かったと思うけれど、ここにもやはり短絡線があって、地下トンネルの中で分岐するのだ。西武国分寺線の恋ヶ窪駅付近の地下に分岐ポイントがあり、ここで武蔵野2号はしばらく停車して、進行方向のレールの空きを待つ。暗いトンネルの中だから、間違って乗ってしまった人は不安で仕方なくなるところだ。実は私が乗ったときも、府中本町方面に行くつもりで乗ってしまった年配の女性グループがいて、ざわざわしていた。車内放送や駅の放送もあったけれど、おしゃべりに夢中で聞いていなかったらしい。

 やっと地上に顔を出す。速度がゆっくりだから、モグラが出てきてこんにちは、という感じ。ただしそこは中央線の上下線の線路の間である。のどかなイメージはない。「マンホールから顔を出したら交差点の真ん中」という気分だ。銀色にオレンジ色の帯の通勤電車が行き交う中、そろりそろりと中央線の線路に入る。中央線に入ったらスピードを上げていく。他の電車に合わせて走らなくてはいけないのだ。1960年代生まれの電車はチカラを振り絞る。窓ガラスが小刻みに震える。その窓から、晴れた日には富士山が見える。立川を出て多摩川を渡るあたりだ。進行方向右側の車窓に注目しよう。

中央線と合流する(左)。多摩川を越えると富士山が見えた(右)

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