第9鉄 仙石線マンガッタンライナーと“キレンジャーのカレー”杉山淳一の +R Style(3/4 ページ)

» 2009年07月03日 14時15分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]
ポストの上でロボコンがラブレターを持っている

 石巻駅から石ノ森萬画館までは徒歩10分。駅前通りを真っ直ぐ歩き、サイボーグ009の角を曲がり、ロボコンや仮面ライダーの等身大人形を辿っていく。石ノ森が生み出したヒーローたちは、シャッターに描かれていたり、郵便ポストの上に居たり、探して歩くだけでもなかなか楽しい。そして北上川を渡る橋に立てば、丸い球体の建物が見える。公園に不時着した宇宙船のような雰囲気、石ノ森萬画館である。

宇宙船のような石ノ森萬画館

石ノ森章太郎も、赤塚不二夫も……トキワ荘の思い出

 サイボーグ003のコスプレをしたお姉さんに迎えられて館内へ。宇宙船の中はスロープで上に向かっていくつくりになっていた。壁には石ノ森氏の原画を使った技法解説が展示されている。今日の特別展は赤塚不二夫がテーマで、東京青梅市の赤塚不二夫会館とのコラボレーションだという。赤塚は石ノ森を慕って漫画家を志し、トキワ荘に入居する。手塚治虫が切り開き、若手漫画家たちが地ならしをしていった時代の話だ。赤塚の年表に書かれた作品の膨大さに驚く。かつて一世を風靡したギャグは、現在のお笑いのセンスからすると地味にも見える。ただこの時代、日本人はやっと豊かになり、生活不必需品の漫画を買い、いつでも笑えるようになった。そんな人々に、赤塚は直球を投げ続けた。

 常設展示コーナーの始めに、石ノ森と仲間たちが過ごしたトキワ荘を紹介するコーナーがある。トキワ荘の模型の緻密なこと。生活の匂いが漂ってきそうだ。そして3Dグラフィックでトキワ荘を疑似体験できるPCがある。隣には、トキワ荘の住人たちが回想するビデオ再生機。その赤塚不二夫の証言によると、彼らはみな貧乏で、とにかくキャベツの塩炒めばかり食べていたらしい。あるときさすがにキャベツに飽きて、畳をひっくり返してお金を探し、出てきた10円でコロッケパンを買って、石ノ森と2人で半分ずつ食べた。「あれはご馳走だったな」と画面の中で赤塚がしみじみと言う。それが後年に参加した、つのだじろうの証言では、歌舞伎町の深夜喫茶で朝まで語り明かすようになっている。塩キャベツで空腹をしのぎ、心に栄養を蓄えた若き漫画家たちは、ちょっとずつリッチになって、やがてトキワ荘を旅立っていったらしい。

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