箱根関所のバス乗り場から熱海行きのバスは1日10本。午前10時から17時まで、だいたい40分ごとに1本程度の便がある。バスに揺られて約30分で十国峠登り口に着く。ここはドライブインになっていて、マイカーで訪れる人のほうが多い。このドライブインの2階が、伊豆箱根鉄道の十国峠ケーブルカーの乗り場になっている。頂上駅までの所要時間は約3分。こちらは箱根と違って景色がいい。沿線も灌木の植え込みが整備され、線路も盛り土の上にある。晴れた日は登り方向の車窓左手に富士山も見える。
頂上の十国峠駅は本当に“お山のてっぺん”だ。標高765メートルの日金山の山頂なのである。十国峠の十国とは、手近な相模・駿河・遠江をはじめ、甲斐・武蔵・伊豆・上総・下総・安房・信濃までを指すという。いや信濃ではなく常陸だという説もある。もちろん遠方は山のみであろうけれど、確かに展望台に立つと、空気の澄んだ晴れた日は、これらすべての地域を見通せそうだ。海が拡がる南方向は、まず大島がぽっかり浮かんでいる。空気が澄んでいれば、伊豆半島の小室山と大室山に挟まれるようにして、三宅島、利島、新島も見える。なるほどここは絶景だ。頂上には鎌倉幕府を開いた源頼朝の息子、征夷大将軍の源実朝の歌碑がある。実朝は鎌倉から箱根権現へ参るため、十国峠を行き来したという。
さて、箱根ケーブルカー巡りの締めくくりとして、お待ちかねのアイスクリームをいただこう。今回オススメしたいアイスクリームは十国峠売店の「わさびソフトクリーム」だ。わさびソフトクリームといえば、ソフトクリームにわさびを練り込み、ほんのりとわさびの香りがする。長野や静岡など山葵の産地のおみやげ屋さんで定番の商品だ。ところが十国峠のわさびソフトはまったく違う。ミルク風味の濃厚なソフトクリームに、すり下ろしたままのわさびをポンと載せたという代物……。
「おいおい、これはいくらなんでも手抜きが過ぎる」と呆気にとられつつ、フルーツジャムの要領で、わさびとソフトクリームを混ぜながら口に含めばあら不思議。美味しいのだ。辛みが和らぎ、わさびの香りがシャキッと清々しく感じられる。練り込んだ作り置きではこうはいかない。「あと載せシャッキリ」だからこその風味である。洋菓子で使われるミントのような感覚だ。そうか、ワサビは日本が世界に誇るハーブなんだ。
売店で訊いたところ、本ワサビをソフトクリームの機械に入れると詰まってしまうため、このようなスタイルになったという。作り置きをすると風味が薄まるため、あえてこのスタイルにこだわっているそうな。強い日差しに心地よい風。そんな日にぴったりのわさびソフト。現在は第一印象で誤解を与えないようにと「生わさびすり下ろしソフト」という名で販売中とのことである。
※箱根を乗り物でめぐる場合は、「箱根フリーパス」などのオトクなきっぷを使うのも一般的。
肉食系鉄道ライター(魚介類が苦手)にして、前世からの鉄道好き。生まれて間もなく、近所を走っていた東急池上線の後をついていったという逸話あり。曰く「いつもそばを走ってたから、あれが親だと思った」
コンピューター系出版社でゲーム雑誌の広告営業を経験した後、フリーライターとなる。オンライン対戦ゲーム、フリーウェア、PCテクニカルライティングなどデジタル系の記事を専門とし、日本初のEスポーツライターとしてオンライン対戦ゲーム競技を啓蒙する。
趣味は日本全国の鉄道路線探訪で、現在の路線踏破率は約8割。著書は「知れば知るほどおもしろい鉄道雑学157(リイド社)」、「A列車で行こう8 公式ガイドブック(エンターブレイン)」など。
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