韓国の新しいモバイルブロードバンド規格「WiBro」のいま韓国携帯事情

» 2005年06月07日 16時21分 公開
[佐々木朋美,ITmedia]

 ブロードバンド普及率で上位の韓国だが、3G携帯電話や無線LANなどの「モバイルブロードバンド通信」においてもインフラの充実が目覚しい。そんな韓国で、新しい無線通信方式「WiBro」が開発され、国内はもとより海外からも大きな注目を集めている。

WiMAXがベースの通信技術、統合も?

 WiBroは、広域で高速無線通信が可能な「WiMAX」(IEEE 802.16)をベースに、ETRI(電子通信研究院)をはじめSamsungやKTなどの韓国企業が中心となって拡張を行った無線通信方式だ。

 WiBroがWiMAXと大きく違うのは「移動中の利用を想定している」という点だ。

 WiMAXはもともと、ADSLなどが利用できない地域でのラストワンマイル問題を解消するために作られた無線通信規格だ。固定通信向けのWiMAX規格である「IEEE802.16a」や「IEEE802.16-2004」は既に標準化が承認され実用化が進んでいるのに対し、移動中の利用も可能なモバイル向けの規格である「IEEE802-16e」はまだ標準化が済んでおらず、実用化にはまだ時間がかかる(2005年4月8日の記事)

 しかしWiBroは、もともと移動中でも動画などの大容量データをやりとりすることを想定して作られており、時速60キロ程度での移動時でも下り512Kbpsを実現できるといわれている。既にユーザ当たり下り最大1Mbpsの高速通信が可能で、2005年までにはこれが3Mbpsまでに引き上げられる予定だ。

 なお、昨年11月にはSamsungがWiBroでの1Mbps通信、今年4月には野外での4Mbps通信に成功しており(2005年4月20日の記事)、商用化に向けた開発も進んでいるようだ。

 WiBroはWiMAXをベースにしているものの、独自に拡張を行っているためあくまで韓国独自の方式となっている。しかし11月にはWiMAXを積極的に推進するIntelと、LG電子との間でWiMAXとWiBroの統合化を進める合意がなされ(2004年11月15日の記事)、さらに今年4月にはSamsungがWiMAXの推進団体「WiMAX Forum」の理事会メンバーに選出されている。今後IEEE 802.16eにWiBroの技術を取り入れるような形でWiMAXとの統合が進む可能性も高い。同フォーラムには3月にKTも正会員として加入を果たしており、海外への積極的な展開が予想されている。

国内の免許割当には波乱も

 規格の査定とともに、韓国内でのWiBroサービスの準備も進められている。既にWiBro用に2.3GHz帯の周波数帯が割り当てられており、2005年1月には3社への事業免許割当が行われた。

 免許の取得には当初、SKT、KT、LGグループの固定電話会社DACOM、そしてADSLなどブロードバンド事業を手がけるハナロ通信の4社が名乗りをあげたが、DACOMが「Thrunet(経営破綻したブロードバンド事業者)の買収に集中する」との理由で手を引いたため、結局無風で3グループへの割り当てが決定することとなった。

 しかしWiBroの免許を取得したハナロ通信が、4700億ウォン(約470億円)という膨大な金額を提示してThrunetを買収し、固定ブロードバンド市場でKTに匹敵するシェアを獲得。加えてWiBroの収益性が不確実であるという理由から、免許を取得したにもかかわらずWiBro事業を放棄してしまった。

 結果、韓国でWiBroの事業を予定しているのはSKTとKTの2社となっている。KTは2006年4月からソウルなど首都圏でサービス開始した後、2008年には全国84都市にサービスを拡大する予定で、WiBroや携帯電話、無線LANなどを組み合わせたマルチモード端末の開発なども行うとしている。またSKTも2006年6月にはソウルおよびその近郊でサービスを開始し、2009年には全国84都市の中心部でサービス展開を行う予定。携帯電話やDMB(Digital Multimedia Broadcasting)などと融合したサービスを計画している。

 ちなみにSKTとKTの2社には、3年後に加入者が500万人を突破していることを条件に、回線のMVNOが義務づけられている。今回WiBro事業を諦めた事業者にも、MVNOの形でWiBroを使ったサービスを展開できる可能性が残されている。

韓国でWiBroは十分活かされるか?

 しかし、WiBroが順調にサービスインできたとしても、韓国内で有効に使われるかどうかは未知数だ。WiBroの免許を取得したSKTは全国で使えるEV-DOの高速無線網を既に備えており、W-CDMAにも多額の投資を行っている(5月2日の記事参照)。またKTもグループ企業に携帯電話事業のKTFを持ち、自社でも公衆無線LANサービス「Nespot」を全国レベルで展開している(4月4日の記事参照)。加えてSKTやKTFはW-CDMAの拡張版であるHSDPAの導入も目指しており(5月2日の記事参照)、「移動中でも高速ブロードバンド通信が可能」という点を考えるとWiBroともバッティングする可能性が高い。

 WiBroは「携帯電話と無線LANの中間をサポートする技術」だと言われているが、これだけ充実した無線ブロードバンド通信網を持つ韓国では、存在意義を見出すのが難しくなってくる。現在は海外の引き合いも多く、日本をはじめ多くの国の注目を集めているが、本国で成功を収めなければ海外への展開も困難になるだろう。

 「日本発の通信技術」と期待されながら、携帯電話との競争に明け暮れた結果、一時は崩壊の危機にまで至ったPHSのことを思い出させる。

佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。

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