ドコモが2005年の導入に向けて開発を進めている高速パケット通信技術「HSDPA」。横須賀リサーチパーク(YRP)のドコモR&Dセンタで3月2日、記者向けにデモが公開された。
下り最大通信速度384Kbpsの現行W-CDMA方式を拡張し、最大で14Mbps、平均して2M〜3Mbpsの通信速度を実現するHSDPA(High Speed Downlink Packet Access)。
その特徴をIPネットワーク開発部の尾上誠蔵部長は、「とにかく伝送効率が良く、それによってビットコストも低減する」と説明する。現行FOMAの通信方式W-CDMAに比べると、実に伝送効率は3〜4倍。まずは概要を簡単にまとめておこう。
通信方式 | 現行W-CDMA | HSDPA |
---|---|---|
音声通信 | ○ | × |
上り速度 | 最大384Kbps | × |
下り速度 | 最大384Kbps | 最大14Mbps |
両方式の大きな違いは、電波状態によって通信速度が変化する点だ。「W-CDMAはセル(ひとつの基地局がカバーするエリア)の端でも384Kbps出るが、セルの中心でも速度は同じ。HSDPAは場所(電波状態)によって変わる」(尾上氏)。
屋内にHSDPAのIMCS基地局を設置した場合のような、基地局直下の状態では14Mbps。基地局近辺の電波状態がいい場所では7M〜8Mbps。セルの端の周囲からの雑音が多いような場所では2Mbps程度と変化する。これは電波状態に応じて、2ミリ秒ごとに変調方式や符号化率を制御しているためだ。
方式 | R99 W-CDMA | 比率 | R5 HSDPA |
---|---|---|---|
速度 | 384Kbps | 35倍 | 約14Mbps |
変調速度 | QPSK | 2倍 | 16QAM |
符号化率 | 1/2.2 | 2.2倍 | 1 |
コード使用率 | 0.165 | 7.5倍 | 0.94 |
こう見ていくと、HSDPAがCDMA2000 1x EV-DO(2001年7月の記事参照)とよく似た通信方式であることが分かる。HSDPAでも、複数のユーザーの中から電波状態が良好なユーザーへのデータ送信を優先しつつ、平均では公平となるようなスケジューリングを行うなど、「要素技術としては似たようなもの」(尾上氏)だ。
では違いは何か。
まずは「1つのキャリアでパケットと回線交換の両方を使えるところ。EV-DOよりEV-DVのほうが近い」(尾上氏)。EV-DOは、1.25MHz幅の1キャリア単位で、EV-DOに使うかCDMA2000 1xに使うかを設定する。HSDPAでは1キャリアにHSDPAパケットと回線交換、R99パケットの混在が可能だ。ちょうどEV-DV(Evolution Data and Voice)に近い(2001年7月の記事参照)。
もうひとつは1キャリアあたりの周波数幅の違いだ。「(HSDPAは)広帯域であるため、効率と速度の面でEV-DOより有利。ユーザーダイバーシティの効果も高い」(尾上氏)。HSDPAの周波数幅が5MHzなのに対し、EV-DOは1.25MHz幅。周波数幅が広い分、1キャリアあたりの通信速度は増している。複数ユーザーがセル内にいる場合、電波状態のいいタイミングを見計らって通信することで、セル全体のスループットを向上させる「ユーザーダイバーシティ」も、広帯域のHSDPAのほうが有効に働く。
HSDPAは、EV-DOと同様に従来のW-CDMA基地局をアップグレードすることで対応が可能だ。基地局のベースバンド部の交換と、ソフトウェアのアップグレードで対応できる。装置の価格アップは数割程度だが、効率アップによって収容加入者数は3〜4倍になり、大幅なビットコストの低下が可能となる。
また、HSDPA対応端末では受信ダイバーシティの実装も想定されている。ダイバーシティは複数のアンテナを用意し、入力を選択・合成することで信号強度を上げる仕組み。KDDIのEV-DO端末の一部では採用されているが(2月13日の記事参照)、ドコモのW-CDMA端末では今のところ採用例がない。
電波状態によらず384Kbpsが保証されるW-CDMAと違い、電波状態によって速度が変化するHSDPAでは「受信ダイバーシティを実装すると、端末のユーザーにメリットがある。いい端末を開発する、メーカーへの動機付けになる。ネットワーク側でもキャパシティアップにつながる」(尾上氏)。
HSDPA技術は2月から6月にかけて、屋外での試験も行っており、導入は2005年になる予定だ。なお端末側は当初、最大3.6Mbpsでの対応となることが、ドコモの立川敬二社長から明かされている(1月16日の記事参照)。
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