なぜ、いまTD-CDMAなのか 〜技術の生みの親に聞く(前編)

» 2004年02月10日 02時38分 公開
[杉浦正武,ITmedia]

 今年、ADSL業界で最も気になるトピックの1つが、「TD-CDMA」だ。同方式は、IMT-2000で定められた3G規格の1つ。現在は、各ADSL事業者とも実験(記事参照)段階だが、将来的には、この技術を用いてIPモバイル電話が登場するとも言われている。

 3G規格には、携帯キャリアが採用して、サービスを提供中の技術もある(下表参照)。いくつかある“CDMA”(Code Division Multiple Access:符合分割多重接続)方式の中で、TD-CDMAはどんな特徴を持っており、どう優れているのか。

TDD方式TD-CDMA
TD-SCDMA
FDD方式DS-CDMA(W-CDMA)
MC-CDMA(cdma2000)
IMT-2000では、複数の3G規格が規定されている(各方式の説明は後述)

 国内でいち早く同方式を提案し、「TD-CDMAの生みの親」とされる、慶応義塾大学理工学部情報工学科、工学博士の中川正雄教授に話を聞いた。

発表当時は「あまり反応がなかった」

 中川氏は、1991年に国内の学会でTD-CDMAを発表した人物だ。

Photo 慶應義塾大学の中川教授

 当時の背景として、米Qualcommが提唱するFDD(Frequency Division Duplex)方式のCDMAが、標準化されようとしていた。そのためか、国内の学会で発表したときも、また米国の学会で発表した際も、さほど大きな反響はなかったという。

 しかし、1993年にスイスのジュネーブで発表した時は、「説明が終わると、すぐに10人ほど質問の手が上がり、時間終了後も数人に取り囲まれた」。欧州としては、米国との差別化を狙う観点からも、TDD(Time Division Dultiplex)方式のTD-CDMAを気にいったようだという。その後CDMAといえば、FDD方式とTDD方式が並立するようになる。

 国内でいえば、NTTドコモのDS-CDMA(用語)や、auのMC-CDMA(用語)はFDD方式だ。これらは、「音声中心のストラクチャ」(中川氏)。一方で、“データ通信をメインに考える技術”として、TD-CDMAが浮上してきたわけだ。

FDDとTDDの違い

 ここで、そもそもFDDとTDDが根本的にどう違うか、おさえておこう。

 ポイントは、「上りと下りの帯域をどう使い分けるか」にある。まずFDDは、日本語で「周波数分割双方向伝送」と呼ばれることから分かるように、上り/下りに利用する周波数帯を、それぞれ別に分けてしまう。

Photo 国内での、IMT-2000の周波数割り当て(クリックで拡大)

 実際に、国内でFDD方式CDMAがどう帯域を割り当てられているか、確認した方が分かりやすいかもしれない。図でいうと、1919.6〜1980MHz帯が、上り帯域。2110〜2170MHz帯が下り帯域となる。ガードバンドを挟んで、上下それぞれ60MHz幅が用意されている。

 一方TDDは、日本語でいうと「時分割複信」。通信の際、時間軸をミリ秒単位で分割して、“上り通信の時間帯”と“下り通信の時間帯”とを用意する。これにより、同一の周波数帯域を利用しながら、上り下りを使い分けることが可能になる。国内では、2010〜2025MHz帯が空いていることから、ここがTD-CDMA用として使われる見込みだ(上図を参照)。

 TD-CDMAでは通信時間を15からなる“スロット”に分割する。たとえば、上りに7スロットを、下りに8スロットを割り当てる……といった要領だ。このとき、下りに8スロット以上を割り当てる(つまり下り通信の時間帯を長くする)といった変更も柔軟に行えるため、下りの最大伝送速度を向上させられる。

 これにより、「ADSLと同じように、上り下りの通信速度を非対称にできる」(中川氏)。これが、一般にいわれるTD-CDMA方式のメリットだ。「FDDでは、下りだけ高速化しようとすると、上りの帯域が余ってしまう」(同)。

パワーコントロールのメリット

 TD-CDMAが優れている点は、ほかにもある。中川氏が挙げたのは、「パワーコントロール」の部分だ。

 CDMAでは、スペクトル拡散の技術を利用することで、複数ユーザーが同じ帯域を使用している。このため、基地局に近いユーザーがいると、「基地局から遠くにいるユーザーの弱まった電波が、マスキングされて排除されてしまう」(中川氏)という問題が起こる。これは、FDD方式でも、TDD方式でも共通の問題だ。

 このため、基地局の近くにいるユーザーの電波は、弱めてやるといった具合に、送信電力を調節する必要がある。これを、パワーコントロールと呼ぶ。

 具体的には、基地局への上り信号を見たうえで、端末への下り信号を用いて、「送信電力が強いので、絞れ」といったフィードバックを各端末に行う。移動体では当然ながら、基地局と端末の位置関係が流動的なので、上記のフィードバック作業は絶え間なく行う必要がある。

 ここで、FDDとTDDでは差が出る。FDDでは前述のとおり、「上り/下りが別帯域で、相関がない」(中川氏)ため、一連のフィードバック手続きに手間がかかる。一方、TDDでは上り/下りが同じ帯域であるため、より簡単にパワーコントロールができるのだという。

 「パワーコントロールでは、TDDの方がFDDより、2〜3デシベルほど精度がよくなる」(同)。

ほかのCDMAでも高速化計画が進むが……

 TD-CDMAのメリットの1つは、比較的高速なデータ通信にある。前述のとおり、下りスロットの割合を増やせば、下り速度はメガビットオーダーになると見られている。

 だが、1つ気になる点がある。それは、携帯キャリアが採用するFDD方式のCDMAでも、高速データ通信が可能になりつつあるということだ。たとえば、NTTドコモはDS-CDMAの次の通信方式としてHSDPAの開発を進めているが、これなどは下り最大14.4Mbpsを実現できるという。

 次回は、こうした技術とTD-CDMAを比較しながら、両者の関係について中川氏に聞いてみたい。

 なぜ、いまTD-CDMAなのか 後編に続く次

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2024年04月26日 更新
  1. 楽天モバイルのスマホが乗っ取られる事案 同社が回線停止や楽天ID/パスワード変更などを呼びかけ (2024年04月23日)
  2. シャープ、5月8日にスマートフォンAQUOSの新製品を発表 (2024年04月24日)
  3. スマホを携帯キャリアで買うのは損? 本体のみをお得に買う方法を解説 (2024年04月24日)
  4. 貼り付ければOK、配線不要の小型ドライブレコーダー発売 スマート感知センサーで自動録画 (2024年04月25日)
  5. Vポイントの疑問に回答 Tポイントが使えなくなる? ID連携をしないとどうなる? (2024年04月23日)
  6. 通信品質で楽天モバイルの評価が急上昇 Opensignalのネットワーク体感調査で最多タイの1位 (2024年04月25日)
  7. 中古スマホが突然使えなくなる事象を解消できる? 総務省が「ネットワーク利用制限」を原則禁止する方向で調整 (2024年04月25日)
  8. ドコモ、「Xperia 10 V」を5万8850円に値下げ 「iPhone 15(128GB)」の4.4万円割引が復活 (2024年04月25日)
  9. 「iPhone 15」シリーズの価格まとめ【2024年4月最新版】 ソフトバンクのiPhone 15(128GB)が“実質12円”、一括は楽天モバイルが最安 (2024年04月05日)
  10. スマートグラス「Rokid Max 2」発表 補正レンズなくても視度調節可能 タッチ操作のリモコン「Rokid Station 2」も (2024年04月25日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー

2024年