“携帯電話のOS”を目指すBREW──国内でも1号機Qualcommのアプリケーションプラットフォーム「BREW」を搭載した端末が,国内でもKDDIから近々お目見えする。「Javaの3倍の速度」を誇るBREWは,“携帯電話のアプリケーションすべてのプラットフォーム”になることを目指す。
米QualcommのBREW発案者,Paul E.Jacobs執行副社長が来日し,3月8日,日本におけるBREWの戦略について説明会を開いた。国内では,KDDIがBREWを搭載した携帯電話「C3003P」を3月中旬に発売する予定(2月25日の記事参照)。
携帯電話のアプリケーションプラットフォーム,BREWBREWは,Qualcommが開発した携帯端末向けアプリケーションプラットフォーム。ソフト開発者はアプリケーションをC言語やC++言語で記述でき,Javaのように仮想マシンを利用せず「CPUのネイティブ」(Qualcomm)で動作する。 Qualcommチップセットに搭載されたgpsOne(2001年4月の記事参照)などの機能をアプリケーションから利用できるのが特徴。またBREWアプリケーションは無線ネットワークを通じてダウンロードすることが可能だ。 cdmaOne技術のライセンス元として,技術力をウリとしてきたQualcommだが,「これからは技術だけでは売れない。豊富なアプリケーションが必要だ。その秘訣がBREW」(クアルコムジャパンの松本徹三社長)と,期待を寄せる。
海外ではBREW展開済み既に韓国のKorea Telecom FreeTel(KTF)が,昨年11月9日にBREWの商用サービスを開始している(2001年11月の記事参照)。今年2月28日時点で対応端末が4機種あり,23万4000人が利用しているという。 米Verizonもこの春から商用サービスを開始する予定だ。「世界の17のキャリアと契約を結んでいる。トータルで8100万人のユーザーがいる」(米Qualcommインターネットサービス部門プレジデントのPeggy L.Johnson氏)
世界各国にBREWプラットフォームが普及することで,アプリケーションの再利用を促進するのも狙いの1つ。QualcommはUAM(Universal Aplication Manager)というBREW向けのマーケットプレイスを用意し,各キャリアがBREWアプリケーションをやりとりできる仕組みも用意する。 「韓国のアプリケーションをVerizonに持っていくことができる」(Johnson氏) 日本ではKDDIが3月中旬にBREWプリインストール端末を発売する。ただしダウンロードサービスには未対応で,秋からといわれるサービス開始時には別途対応端末が登場する予定だ。 「日本は(BREWの展開が)少し遅れているが,Webやメールなどのサービスが先行しているため,それらと共存するために(韓国などよりも)作り込みに時間がかかった」(松本氏)
「BREWはJavaと比較されるものではない」携帯向けのアプリケーションプラットフォームといえば,iアプリに代表されるJavaが有名。しかしQualcommは「JavaかBREWか? という比較はまったくの間違い。JavaもBREWから見ればアプリケーションの1つ」(松本社長)と一蹴する。 仮想マシン(JavaVM)の上で動作するJavaアプリケーションと異なり,「BREWはネイティブアプリケーション」(Qualcomm)。よりハードウェアに近い別のレイヤーで動作する。BREWアプリケーションとしてJavaVMを動かすことも可能で,既にBREW向けのJavaVMも発表されている(2001年2月の記事参照)。 「(BREWの上でJavaVMを動かせば)JavaVMに問題が起きても,BREWのダウンロード機能を使ってJavaVMをアップグレードできる」とJacobs氏。
とはいえ,アプリケーション開発者から見れば,Javaを使うかBREWを使うかは問題となるようだ。「KDDI向けのJavaは,BREWとJavaの位置づけがはっきりするまで積極的に動きたくない」と語るアプリケーション開発者もいる。 Jacobs氏によると,BREWとJavaの違いの1つはセキュリティモデルだ。「JavaではJavaVMが(ハードウェアなどへのアクセスを)ブロックしセキュリティを保つが,BREWでは開発者を特定できる」(Jacobs氏)。つまり,BREWは開発者がキャリアに登録して初めてアプリケーションを動かせるセキュリティモデルを取っている。 一般の開発者が自由にBREWを利用することはできないが,「デバイスのすべての特殊機能にアクセスできる」(Jacobs氏)という利点も持つ。 KDDIのBREW端末「C3003P」にBREWアプリケーションを提供したナビタイムジャパンの大西啓介社長は,BREWの特徴を3つ挙げる。 「BREWは,C言語でプログラムを書いてきた人には移植がしやすい。1週間で移植できた。もう1つはパフォーマンス。ネイティブで動くため,たいへん高速だ。またgpsOneなどチップに固有の機能を利用できる」(大西氏) ナビタイムジャパンではJava版のアプリケーションも提供しているが,「Java版とBREW版を同じハードの上で動作させたらBREWが3倍速かった。Java版の場合,VMが立ち上がる時にコーヒーマークが出るが,BREWの場合本当に瞬時だ」(大西氏)
真の狙いは“PCのOSのような存在”になること?BREWの実態は,携帯のCPU(現在ベースバンドチップが兼ねていることが多い)とアプリケーションをつなぐAPI群だ。BREWによってハードウェアが抽象化され,BREW対応のアプリケーションはさまざまなハードウェアでそのまま動作するようになる。 「BREWは,ソフトウェアサイズも100Kバイト程度。標準的なJavaVMが500K〜700Kバイトなのに比べると小さい」(Qualcomm) “Qualcommのベースバンドチップ向け”と思われることも多いBREWだが,BREWをライセンスした機器メーカーの中にはCDMAではなくGPRSを採用するところもあるという。「(BREWを搭載した)GPRSのチップはQualcomm製ではない」(Jacobs氏) 今後,携帯電話にアプリケーションプロセッサが搭載されてきても,BREWをそのCPUに移植できるため「BREWは常にほかのプラットフォームよりも高速」(Jacobs氏)と胸を張る。 現在のところ,“Javaと似たことがJavaより高速にできる”だけのBREWだが,将来的にはブラウザやアドレス帳など携帯電話上のアプリケーションをすべてBREWアプリケーションに置き換えるのがQualcommの最終的な狙い。 昨今,携帯向けアプリケーション開発の難度向上が語られるようになり,各社はプラットフォームを統一し,機能をパーツ化することで開発効率を上げようとしている(2001年8月の記事参照)。 BREWのような統一プラットフォームが携帯電話に搭載されるようになれば,携帯電話メーカーは自社向けの組み込みソフトウェアをいちいち開発しなくても,サードパーティ製のソフトを組み込むのが簡単になる。また自社の製品も,使い回しが容易になる。 ただし,携帯電話のプラットフォームの座を各社が狙っているのも事実(2月20日の記事参照)。BREWは“携帯電話の標準OS”となれるだろうか。
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