なぜトヨタは「女性役員の個人的な違法行為」で謝罪会見を行ったのか:スピン経済の歩き方(1/4 ページ)
オキシコドンの密輸容疑で逮捕され、トヨタ自動車を辞任した前常務役員のジュリー・ハンプ氏。彼女が逮捕されるとすぐに、豊田章男社長は謝罪会見を開いた(のちに不起訴)。一部メディアは好意的に受け止めていたが、企業の危機管理を担当しているプロからは評判が悪い。その理由は……。
スピン経済の歩き方:
日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。
「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。
そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていきたい。
ジュリー・ハンプさんが不起訴処分で釈放となった。
日本では麻薬とされる「オキシコドン」を国際郵便で持ち込み、麻薬及び向精神薬取締法違反(輸入)容疑で逮捕された元トヨタ自動車常務役員の米国人女性である。ご本人も逮捕直後から、「麻薬を輸入したと思っていません」と主張していたように、犯罪の意思が確認できなかったというわけだ。
ジュリーさんが逮捕されるやいなや謝罪会見を開き、「仲間を信じる」と何度も繰り返した豊田章男社長はホッと胸をなで下ろしているに違いない。
その謝罪会見だが、世論的にはわりと好感度が高く、逮捕翌日に社長が出たことが「迅速な対応」なんて持ち上げるメディアもいる。だが、実はその道のプロたち、いわゆる企業の危機管理の専門家のみなさんたちからはすこぶる評判が悪い。
いろいろ言われているが、プロのみなさんが最も眉をしかめるのが、リコールやら会社の問題ではなく一個人の違法行為に過ぎない話に、「世界のトヨタ」のトップが軽々しく出てしまったという点である。
社員は家族、子どもというのは理念としては素晴らしいが、一度これをやってしまったら、役員が何かしでかすたびに社長が頭を下げなくてはいけない。要は、「悪しき前例」をつくった無責任な行動だというのだ。
さらに「容疑者」段階というグレーな状況で矢面に立ったのもいかがなものかという意見もある。捜査中の案件で企業が口にできることなど限られている一方で、トップが神妙な顔で頭を垂れている姿が全世界に発信される。株価はもちろん企業のレピテーション(評価)にも悪影響が及ぶことは言うまでもない。日本を代表する企業であり、業績も好調だからこそ許されるバクチであって、企業のリスクマネジメント的には完全に「アウト」という評価をする方もいらっしゃる。
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