“ふわっとした話”にどっと押し寄せる、日本人の「弱み」:スピン経済の歩き方(1/4 ページ)
日本の重要文化財などを補修している小西美術工藝社のデービッド・アトキンソン社長の新著が発売された。タイトルは『イギリス人アナリストだからわかった日本の「強み」「弱み」』。筆者の窪田氏がその本の中で特に興味をもったのは……。
スピン経済の歩き方:
日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。
「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。
そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていきたい。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
先日、日本の重要文化財などを補修している小西美術工藝社のデービッド・アトキンソンさんをこのコラムでご紹介したら、周囲からいろいろな質問が寄せられた。(関連記事;『日本は世界で人気」なのに、外国人観光客数ランキングが「26位」の理由』)
そのなかで最も多かったのは、「この人って親日家なんでしょ?」とか「日本を愛するあまり厳しいこと言っているんでしょ?」というものだ。最近よく見かける「日本がスゴい」とか「日本は世界一」みたいなテレビ番組に登場して、日本を褒めちぎる外国人タレントのような人だと思ったようだ。
確かに、デービッドさんは25年間も日本に暮らしていて日本語もペラペラ。お茶の腕前はかなりのものだし、日本の礼儀作法もよく心得ている。京都に町家も所有していて、お能を嗜(たしな)む。おまけに、300年を誇る日本の国宝を修復する企業の社長だ。経歴だけみれば、日本のことが好きで好きでしょうがないと思われてもしかたがないだろう。
が、これまで幾度となくインタビューさせていただいた印象では、そんな単純な「親日家」ではない。ご本人も、「日本のことは好きでも嫌いでもない」と公言している。そう聞くと、「反日イギリス人だ」とか騒ぐ人もいるかもしれないが、そんなことはない。
こういう質問を受けると彼はこんなこと言う。「例えば、長年連れ添った奥さんのことをどこが好きかと聞かれても答えに困りますよね」
さらにデービッドさんが自身を「親日家ではない」と公言するのにはもうひとつ理由がある。それは「アナリスト」としての矜持(きょうじ)だ。デービッドさんは元ゴールドマン・サックス証券の伝説のアナリストであり、第一線を引いて現在にいたるまで日本経済などを分析してきたという自負がある。「日本が好き」という感情にとらわれてしまうと、日本のさまざまな問題を冷静な分析ができないというのだ。
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