続編準備中? 少年A『絶歌』の社会的意義:スピン経済の歩き方(1/5 ページ)
元少年Aが著した手記『絶歌』が売れている。出版をめぐり賛否両論が巻き起こっているが、筆者の窪田氏は「世の中に出た意義がある」という。なぜなら……。
スピン経済の歩き方:
日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。
「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。
そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていきたい。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
元少年Aが著した手記『絶歌』(太田出版)が売れている。初版は10万部だったが、6月17日には早くも5万部増刷。この調子なら再び増刷がかかる日も近い。
ご存じのように、「ゲスい金儲けだろ」「いやいや、社会的意義もある」的な論争が巻き起こり、啓文堂書店など一部で販売自粛の動きもあったが、それも含めて絶大なパブリシティ効果を生み、気がつけばあれよあれよというまにベストセラーとなった。
つまり、「私は買いません! ヘドがでます!」と不買を表明する人が多く現れることによって、「そんなにゲスい本ならちょっと見てやろう」というヤジ馬を呼び込むという、「炎上マーケティング」ならぬ「不買運動マーケティング」が見事に当たったのだ。『絶歌』の担当はあの『完全自殺マニュアル』(太田出版)を仕掛けた手練の編集者。こういう論調になることもすべて織り込み済みで、社会的批判というリスクをとって「売り」にいったとみるべきだろう。
そのような出版サイドの姿勢を象徴するのが、「少年犯罪発生の背景を理解することに役立つと確信しております」という声明だ。この「信じる」というワードはかなり便利で、倫理的問題や社会的責任を「思想信条の問題」にすり替えることができるうえ、バッシングが集中しそうな当事者を、「第三者」として一歩引いた印象を与えることができる。
社会からどんなに批判や抗議があっても、被害者遺族から怒りの抗議や民事訴訟があったとしても、「こちらの考えが伝わらなくて残念ですが、こっちは信じていますんで」と木に鼻をくくった回答によって、ある程度のディフェンスができるのだ。米国人の常務役員が麻薬を密輸して逮捕され、その謝罪会見でトヨタ自動車の豊田章男社長が「仲間を信じる」を5回も繰り返したのもそういう狙いがある。
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