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モノがインターネットでつながる――「IoT」市場が急成長しているのはなぜ?ドイツでは国家プロジェクトも(1/2 ページ)

20年後には世界中にある約1兆個の機器がインターネットに繋がって、人間とモノ、モノとモノが相互にコミュニケーションをとる時代が来ると言われている。これによって、我々の生活やビジネスはどのように変わっていくのだろうか。

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平尾憲映(ひらお・のりあき)

サーコム・ジャパン株式会社 IPプロダクト部 ビジネスディベロップメントマネジャー

2008年カリフォルニア州立大学ノースリッジ校マーケティング学位課程修了。米国留学時代にエンタメ領域のスタートアップ創設に従事した後、2009年よりソフトバンクモバイル社に入社。2012年同社を含む複数社からの支援を受け、新会社スーパーシリコンテクノロジーズの設立に、社長補佐として貢献。同社でIoT向けセンサー技術等の見識を深めた後、2014年よりODM専業ベンダーのサーコムジャパンに入社し、IoTインキュベーターとしてIoTエコシステムの創出に尽力している。


 ビジネスパーソンの朝は忙しい。「ああ、遅刻する!」と慌てながら朝食をとる人も多いだろう。ある日、あなたがスクランブルエッグをかき込んでいると、手にしているフォークから「もっとゆっくり食べましょう」としかられた。「うるさいなあ……」と思いながら食事を終え、歯磨きをしていると、今度は歯ブラシが「右奥の歯が磨けてませんよ」と話しかけてきた。

 これはSF小説の一シーンではない。近い将来、このように生活の身の回りのモノが人間と同様に思考や感情を持ち、モノと人、あるいはモノとモノ同士がコミュニケーションを取る世界がやって来るだろう。

 実は既にヨーロッパの大手携帯事業者などが、生活用品(フォーク、歯ブラシ、洋服、靴下など)をウェアラブルデバイス化して、相互につなげるような実証実験に取り組んでいる。

 例えば、フォークでは、食べ物を噛むスピードが早すぎる場合、もう少しゆっくり噛むように通知したり、ハブラシは、どの部分がよく磨けていて、どこに汚れが残っているかなどの情報をリアルタイムに示したりするという。洋服や靴下は、その人の体温データなどを逐一収集することで、体調管理や事前の風邪予防対策などに生かせるそうだ。

市場規模は1900兆円に 新サービスが次々と

 こうした世界をどうやって実現できるのだろうか。そのための仕組みが、地球上にあるすべてのモノをインターネットにつなげてしまおうというビジネストレンド、いわゆる「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)」と呼ばれるものである。

自動販売機や家電など、あらゆる機器がインターネットに接続する時代が来る?(写真はイメージです)
自動販売機や家電など、あらゆる機器がインターネットに接続する時代が来る?(写真はイメージです)

 今、このIoTにかかわるビジネス市場規模が急激に成長している。例えば、米Morgan Stanleyや米Cisco Systemsなどの予測では、2020年時点でインターネットに接続するモノの数は、500億〜1000億個と言われていて、2035年になると1兆個を超えるその経済効果は、2020年以降には1900兆円にも達する見込みだ。2013年度の日本の国家予算が約95兆円なので、実にその20倍以上ということになる。

 「またIT業界お得意のバズワードでしょ?」と冷ややかな目で見ている読者の方、まあそうおっしゃらずに聞いてもらいたい。実はIoTは、IT企業だけでなく、あなたが働く製造業や小売・流通業、サービス業など、あらゆる業界のビジネスに関係するものである。

 さらには、民間企業だけでなく、政府機関や自治体なども大きな可能性を感じており、実際に世界各地で大規模なコンソーシアムやフォーラムが立ち上がっている。

 では、一般のビジネスパーソンにとってIoTはどんなメリットがあるのだろうか。1つには、モノが収集、蓄積した膨大なデータを活用することによる新たなビジネスの広がりがあるだろう。

 例えば、自動販売機が利用者それぞれの購買データを溜め込むことで、仮に別の自販機で購入したとしても、自販機同士が接続されていることで、その利用者に合ったお勧めの商品を提案するようになる。そのほかにも、自宅の室温などを遠隔でコントロールするヘルスケアサービスや、車のタイヤの圧力を事前に通知して交換時期を知らせるサービス、冒頭に述べたように、全ての家電を外部から管理するサービスなどが次々と生まれるだろう。

 しかしながら、現状では、IoTはB2C向けの市場が未開拓であり、B2B向け分野が先行している。以下ではその具体的な事例を紹介したい。

ドイツが目指す「スマート工場」

 現在、ヨーロッパ、特にドイツが世界の中でもIoT分野の先端を走っている。その大きな理由は、企業だけでなく政府の手厚い支援だ。ドイツには「インダストリー4.0戦略」という、2020年までに製造業分野で世界的なリーダーシップを取るための戦略がある。ドイツのメルケル首相自らがこの活動を推進して大規模な予算を振り分けており、産学官連携に特化したワーキンググループが誕生している。

 この一環で「スマート工場」と呼ばれる施設を計画している。これは、具体的な生産ラインを持つことなく、各部品、例えば、組み立て中の機械が工場内を自律的に歩き回って生産を完了させるというユニークな仕組みであり、まさにその基盤技術としてIoTが活用されるのだ。

 また、米国でもその動きは加速している。例えば、政府が積極的に民間企業に声を掛け、コンソーシアムを設立し、既に100社近い団体が集まっている実績がある。

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