自治体首長選挙公約に変化あり! 「鉄道存廃」から「活性化」へ:杉山淳一の時事日想(1/4 ページ)
衆議院解散と総選挙が決まり国政がざわつき始めた。それよりひと足早く、11月16日に各地で自治体首長選挙が行われた。このうち5つの選挙の当選者が鉄道の活性化を公約に掲げている。自治体にとって鉄道の価値が高まっているかもしれない。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
11月18日、安倍晋三総理大臣は消費税増税の先送りと衆議院の解散を発表した。前回の解散は2012年11月16日だったから、丸2年の節目にあたる。与党の政策を国民に問う機会にはちょうど良いかもしれない。しかし、地方自治体の財政には厳しい事態となった。消費税の内訳は国税と地方税であり、増税の先送りは自治体の税収減につながる。自治体の財源が減ると、自治体の地方ローカル線支援策に影響が出そうだ。
自治体と言えば、11月16日に各地で地方選挙が行われた。このうち全国から注目された選挙は沖縄県知事選で、普天間基地の辺野古移転に反対する翁長雄志氏が当選している。与党推薦の現職候補を退けた形となった。これも政策を問うという意味で、衆議院解散の材料となったかもしれない。
さて、この日の自治体選挙は沖縄だけではなく、ざっと調べただけでも市町村含めて10以上あった。この中で、先に述べた沖縄県知事選のほか、愛媛県知事選、松山市長選、白山市長選、ひたちなか市長選の当選者が鉄道の活用を公約としていた。
沖縄県知事選挙――候補者全員が鉄道建設推進だった
沖縄県知事選挙の最大の争点は米軍基地移転問題だった。反対と賛成に意見が分かれているから争点となっている。その沖縄県では国の沖縄振興策に基づく那覇市〜沖縄市〜名護市を結ぶ鉄道建設計画がある。これを受けて沖縄県も独自に鉄道建設調査を実施。国土交通省の試算では赤字、沖縄県の試算では黒字化が可能となっている。
鉄道建設については4人の候補がすべて鉄道建設賛成派であり、選挙の争点にはならなかった。つまり、沖縄は誰が当選しても鉄道建設へ向かっていく。私は「沖縄県の鉄道計画はトンネルばかりでつまらない」と考えているけれど、那覇市の人口密度と台風が多発するなどの気象条件を考えると、生活の足としては地下鉄が良いかもしれない。少しは観光客も楽しめる路線にしてほしいと思いつつ、今後の動向を見守りたい。
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