新宿伊勢丹の業績がアップした“本当”の理由:INSIGHT NOW!(1/3 ページ)
三越伊勢丹の業績が好調だ。特に新宿伊勢丹が前年比で10〜15%の売り上げ増を達成している。報道向け発表では、リニューアルや独自企画商品の功績を挙げているが、その本当の理由は……?
著者プロフィール:日沖博道(ひおき・ひろみち)
パスファインダーズ社長。25年にわたる戦略・業務・ITコンサルティングの経験と実績を基に「空回りしない」業務改革/IT改革を支援。アビームコンサルティング、日本ユニシス、アーサー・D・リトル、松下電送出身。一橋大学経済学部卒。日本工業大学 専門職大学院(MOTコース)客員教授(2008年〜)。今季講座:「ビジネスモデル開発とリエンジニアリング」。
消費税の増税を経たこの時期、百貨店業界では業績の差が目立ち始めている。中でも業界首位の三越伊勢丹が好調だ。同社が発表した2014年2月の売上確報によれば、全店合計の売上高が前年比106.2%で、12カ月連続で前年を上回るなど順調である。
とはいえ、三越伊勢丹の経営自体はそんなに平坦ではない。激戦区である大阪・梅田に2011年5月にオープンした「JR大阪三越伊勢丹」は不振続きで、2014年1月に売り場縮小が発表されている。旗艦店の1つである三越日本橋本店もぱっとしない。
それに対し、業績に大きく貢献しているのがもう1つの旗艦店、新宿伊勢丹だ。2014年3月期で見ると、前年比で10〜15%の伸びで毎月推移しており(増税前の駆け込み需要の顕著な3月を除いても)、明らかに全体の業績を引っ張り上げている。
その要因は何か。アナリストの分析や報道向け資料では、フロアリニューアルなどの施策が当たったことと、独自企画商品による品ぞろえ強化で、来店客・買上客数・客単価が増加したことなどが挙げられており、経営陣の誇らしげな顔が浮かぶ。しかし、もし本当に同社の経営能力がずば抜けて優れているならば、大阪での苦戦は腑に落ちない。
来店者数が1割増、新規客が中心
その伊勢丹新宿本店には2013年度、面白い事実が2つある。2013年3〜12月の来店客数は前年同期に比べ約1割増と、高度経済成長期以来の伸び率を記録したという。いくら景気が回復しつつあるとはいえ、この人口減社会において、他の小売企業からすれば仰天するような増率である。そして同じ時期、同店では案内パンフレットを手に取る人が増え、2014年度は例年の倍以上となる45万部まで増刷したそうだ。
こうした事実を踏まえると、三越伊勢丹の経営者が主張するように、百貨店の施策に影響されて、既存客の来店頻度が上がったわけではなさそうだ。むしろ、それまであまり新宿伊勢丹に来ていなかった新規客が押し寄せるようになった、ということになる。では、どうしてそんな現象が起きたのだろうか。
勘のよい方はお気づきだろう。そう、東急東横線と東京メトロ副都心線が2013年3月に相互直通運転を開始したため、人の流れが大きく変わったのだ。
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