線路はつながっていても――京葉線とりんかい線の直通運転はなぜ難しい?:杉山淳一の時事日想(1/4 ページ)
森田健作千葉県知事が5月13日、JR東日本京葉線と東京臨海高速鉄道りんかい線の直通運転の実現を目指す意向を表明した。この二つの路線は新木場駅で接続しており、線路はすでにつながっている。直通運転の障壁は何か。解決に何が必要だろうか。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP。
設備(ハードウェア)は対応している。しかし運用(ソフトウェア)が対応できない。その結果、設備のメリットを充分に発揮できない。こういう状況は実にもったいない。
JR東日本の京葉線と東京臨海高速鉄道のりんかい線の直通問題である。京葉線は東京駅から新木場駅を経由して千葉県の蘇我駅に至る路線だ。蘇我からさらに遠方へ向かう特急列車もある。りんかい線は新木場駅と山手線の大崎駅を結ぶ路線だ。途中に国際展示場駅が、京浜東北線や東急大井町線に乗り換え可能な大井町駅がある。コミックマーケットなど東京ビッグサイトの大規模イベントになると混雑する路線だから、その趣味の方々には全国的におなじみの路線だろう。
どちらも国鉄の貨物線だった
京葉線とりんかい線は新木場駅で接続している。鉄道での“接続している”は「乗り換えできる」という意味で使われるけれど、二つの路線はレールもつながっている。しかも線路は方向別に整理されている。直通運転に配慮した構造だ。りんかい線の列車は新木場駅に到着すると、そのまま京葉線の蘇我方面の線路に進入できる。京葉線で蘇我方面からやってきた列車は、下り列車と交差することなく、スムーズにりんかい線大崎方面の線路に進入できる。
運行会社が違っても直通運転に配慮した構造となっている。これは珍しくない。東京メトロ副都心線と東急東横線の渋谷駅のように、当初から直通運転とした駅は多い(関連記事参照:「運行本数は増えるのか? 改良後の銀座線渋谷駅に注目」)。新木場駅の場合も直通運転の予定はあった。というより、この二つの路線は国鉄の貨物線として作られ、もともと現在のりんかい線ルートだった。蘇我―新木場―後の東京テレポート駅付近―東京港大井埠頭の東京貨物ターミナルである。その名残として、東京貨物ターミナルの敷地の隣にりんかい線の車庫がある。
しかし、この貨物ルートは実用化されなかった。京葉線は旅客線に転用されて、新木場から東京駅へ延伸した。新木場からお台場方面の貨物線も旅客線に計画変更した。ただし、国鉄路線を継承するJR東日本は新規開業路線を引き取らなかった。そこで東京都が91.32%を出資し、JR東日本2.41%、品川区1.77%、ほか銀行などが出資する第3セクターとして、東京臨海高速鉄道が設立された。
つまり、もともと千葉県知事が望む直通ルートで計画されていた。しかし旅客線として開業させるときに運営会社が分かれた。先に京葉線が東京駅乗り入れを実現させたため、二つの路線は独自の道を歩んでいる。ただし、線路はつながったままで、列車の往来は可能だ。どちらも旧国鉄在来線の規格を継承しており、設備面もほぼ共通である。その証拠に、りんかい線は大崎駅からJR東日本の埼京線に直通している。
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