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北総鉄道と同じ轍を踏む? 日本一安い運賃「北大阪急行電鉄」が値上げする日杉山淳一の時事日想(6/6 ページ)

日本で最も鉄道運賃が安いのは「北大阪急行電鉄」で、初乗りはなんと80円だ。ところが、この路線には延伸計画があって、もし実現すると、かなり割高な運賃になってしまう。

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見かけだけの公設民営で運賃は高くなる

 北総開発鉄道の教訓は「高額運賃によって街づくりが停滞する」「建設費債務は鉄道運営にとって大きな負担」であった(関連記事)。北大阪急行電鉄の延伸問題は、これと同じ轍(てつ)を踏みかねない。なぜなら、この計画は、北大阪急行が支払う線路使用料で建設債務を返済する枠組みになっているからだ。これは実質的に鉄道会社が自前で建設する旧態然の方式とほとんど変わらない。上下分離しても、結局は運行会社がすべて負担する形になっている。建設債務を償還したら値下げできるという仕組みではあるが、この計画の償還予定は40年だ。40年後に今と同じ運賃水準に戻れるのか。

 本来、公設民営、上下分離とは、インフラを自治体が整備し、運行会社が受益に応じて使用料を支払う方式ではないのだろうか。港湾を整備し、船舶が使用利用を払う。空港を整備し、航空会社が駐機料を払う。バスの場合は自治体が整備した道路を使用する。直接ではないが、法人税や自動車関連税の形で使用料を還元する。そこに建設債務の丸投げはないはずである。建設債務をすべて利用者に転嫁して自治体負担なしとするなら、公共事業である必要はない。民間がやればいい。

 鉄道だけが伝統的に、線路も自社負担となっている。実際には鉄道用地の公共性に配慮して、鉄道用地の税金は減免されている。それでも「線路保有は他の交通事業者とくらべて不公平ではないか」という議論から上下分離という考え方が生まれている。港湾使用料や駐機料に建設債務をすべて転嫁したら、高額すぎて船も飛行機も寄り付かないだろう。町中の道路をすべて有料道路にしたら、路線バスは現在の運賃で運行できるだろうか。

 北大阪急行電鉄の延伸区間は箕面市にとって大きなメリットがある。それは計画書にも明らかだ。それが分かっていながら、建設費用をすべて運行会社に負担させようという枠組みはどうだろう。わざわざ2社に分けるだけ無駄ではないか。計画の中には「北大阪急行が運行した場合、北大阪急行電鉄の既存区間の利益によって新線区間の加算運賃を減額可能」などと書いてある。そんなアイデアに北大阪急行電鉄が乗れるだろうか。

 以上は、公開されている最新の資料「平成21年版 北大阪急行線延伸整備計画深度化調査(案)」からの考察だ。ネタとしては古いかもしれない。もう少しマシな最新資料の公開を望みたい。いずれにせよ、運行会社に負担を強いない公設民営か、つくばエクスプレスのような無利子貸付で北大阪急行電鉄に任せるか。もっと運賃を下げる工夫が必要だ。

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