ローカル路線を巡って近鉄と四日市市が泥沼の対立、決断はこの夏:杉山淳一の時事日想(6/6 ページ)
小さな規模ながら地域に密着し、生活に根付いた鉄道路線が重大な局面を迎えた。鉄道会社はビジネスで決断、地元自治体はどうするのか。
鉄道維持なら近鉄からの分離は必至
こうした事例を踏まえてもなお、近鉄としては「近鉄の鉄道路線としての存続はない」という。存続した鉄道路線も厳しい状況になっているからだろう。まだ「BRTにして赤字を圧縮できれば、近鉄として路線を維持する」というだけ良心的と言える。
あとは鉄道にこだわる四日市市が、どこまで費用を負担できるかという問題だ。国は地方交通の維持に積極的だが、毎年3ケタ億円もの黒字企業を支援しないだろう。国の支援を得るためにも、まずは近鉄からの分離が必要と思われる。
今年に入り、ようやく四日市市側に現実に目を向けた動きが出てきた。市議会は和歌山電鐵を再生させた両備グループの小嶋会長を招いて公聴会を実施した。鉄道経営の現実と自治体の支援が重要という内容で、これはかなり四日市市には耳の痛い話だったようだ。また、市民に対して存続へ向けたアイデアを募集し165件の意見を集めた。
市議会議員や自治体の有志が、沿線住民へのアンケートを実施している。アンケート項目には「いくらまでなら運賃値上げを容認できるか」など、第三セクター化や市営化を見越した項目もあるようだ。
四日市市にとっては正念場だが、幸いなことに、この問題が表面化し、存続への署名運動や市民へアイデア募集などを実施したことで、市民全体が問題を共有できたかもしれない。鉄道として存続し、市民のアイデアが生かされると、内部線・八王子線は、さらに地域に密着した幸福な鉄道路線に生まれ変わると期待している。
もちろん鉄道ファンとしては、鉄道として残してほしい。珍しいナローゲージの電車であるし、三岐鉄道北勢線と絡めた鉄道趣味の観光資源化も期待したいところである。しかし、それはあくまでも存続が決まったあとの段階となる。
ともあれ、四日市市の動きと、この夏の決断に注目したい。大手私鉄が抱える赤字ローカル線問題への対処と、自治体の公共交通へのありかたについて、ひとつの回答が示されるだろう。その事例は都市交通問題の教科書になるかもしれない。
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