時速10キロメートルの銀座旅行――自転車タクシー「ベロタクシー」で行く:近距離交通特集(3/3 ページ)
自転車にお客を乗せて走るベロタクシーは、日本では2002年にデビューした新しい交通手段だ。現在国内で約100台が営業しているベロタクシーの実力とは?
9月に開店したばかりのファッションショップH&Mの近くを通ると、まだ長い行列ができていた。駅からH&Mに行かれる若い女性はよく乗せますね、と川田さんはつぶやく。
ベロタクシーのドライバーは20歳過ぎの男性が中心で、半分近くを学生が占めるという。「若い女性が多い銀座は、ドライバーに大人気じゃないんですか?」と無粋な質問を投げかけると、「いえ、東京タワーの辺りの方が人気ですね。乗車運賃が稼げるので」と返された。
東京の場合、乗車運賃の80%がドライバーの収入となる。ベロタクシーでは通常のタクシーとは違い、乗車する人それぞれに運賃が発生する。そのためドライバーにとっては、銀座で女性1人を乗せるよりは、東京タワー近辺で家族連れを乗せた方が稼ぎは良くなるのだ。
お客さんに気に入られると乗車運賃だけでなく、チップをもらえることもあるという。「お茶やジュースはよくいただきます。一度、ビールを6缶もらったことがあったのですが、さすがにそれは持ち帰って飲みましたね」(川田さん)。
とはいえお金のためというよりは、お客さんとのコミュニケーションを楽しみにしているドライバーがほとんどだそうだ。「銀座で働いていた元警察官の方が、思い出の場所を回りながら色々教えてくれたこともあった」(川田さん)。以前、大阪でもドライバーをしていた川田さんは、コミュニケーションの一環として、とりあえず値切り交渉から入ってくる人も多かったと振り返る。
「時折、乗せた方の感謝の手紙が本部に届くことがあるのですが、その時はテンションが上がります」(川田さん)。そうした思い出があるからか、大学を卒業して企業に就職するとなっても、ドライバーの籍を残しておいて、休日などに復帰できるようにしている人は多いという。
ベロタクシーに乗っていると、信号待ちなどで止まっている時によく写真を撮る人がいて、観光シンボルになっていることを感じる。珍しさからか、声をかけてくる人も多い。ドライバーも、自分が写っている写真や動画がブログやYouTubeにアップされていないかと探している人が多いとか。
しばしの銀座遊覧を楽しみ、有楽町イトシア前に戻る。ベロタクシーから降りると、時間の流れが変わったように感じた。ベロタクシーでは、ゆっくりとした時間が流れていたのだ。ビジネスパーソンたちが忙しげに行きかう東京。その中で、ベロタクシーはほっと落ち着けるような空間を提供してくれた。日々の生活に追われて疲れている人が乗れば、いつもと違う街の風景を見て気分転換できるかもしれない。
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