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涙の会見後、何が起きたのか――白骨温泉・若女将が語る「事件の真相」(後編)嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(2/6 ページ)

田中康夫前知事と若女将の涙の会見は、まるでドラマでも見ているような衝撃だった。そのため白骨温泉=悪という公式が、いまだ多くの人の心の中でくすぶり続けているようだ。結果、白骨温泉の現状はどうなっているのだろうか? 

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従業員・出入り業者・地域社会への甚大な影響

 その一方において、経済的影響は重大であった。事件の後遺症で、企業としての雇用責任を果たすことが困難となり、スタッフの人員を減らさざるを得なくなったほか、出入り業者への発注量も減少した。

 白骨温泉全体の評判が落ちることで、おみやげ屋など地域社会への経済的影響は計り知れないものがあったろう。そもそも入浴剤を投入しなかった旅館の方が多いにもかかわらず、それらの旅館まで白い目で見られることになり、その風評被害も相当あったと推察される。

 白骨温泉ツアーなどを企画し、積極的にお客を回してくれていた旅行会社各社との関係は悪化しなかったのだろうか?

 「お客様を回してくれなくなったところも一部にはありましたが、大多数の旅行会社はしっかりと顧客対応してくださり、お客様も回してくださいました。ただ『公共野天風呂での入浴剤投入が発覚した時点で、白船グランドホテルとしても、正直に言ってほしかった』とは言われましたね」

白骨温泉の日帰り入浴施設の案内(左)、1954年に白井喬二氏が中心となり建立された中里介山文学碑(右)

急転直下、客足減少、長い冬の時代に突入

 嵐のような夏の日々はいつしか過ぎ去り、秋の行楽シーズンも一段落し始めた頃、白船グランドホテルに異変が生じる。客足がガクッと落ちたのである。事件後の新規の予約が伸びなかったのだ。

 そんな時、ゆづるさんのご主人が救急車で搬送される。事件以降の強烈な緊張と過労が影響したのか、人工透析を要する身となってしまう。2005年に入ると、客足はさらに落ち込んだ。

 「秘湯ブーム以前の状態に戻りました。ハイシーズンだけ、それなりに客足が伸びる感じですね」

 日本中を挙げて秘湯ブームは絶好調だったが、白船グランドホテルをめぐるそうした状況は、2006年、2007年といっこうに変わらなかった。その間に(2006年)、創業社長(83歳)がガンで亡くなり、病気のご主人が同年、2代目社長に就任。そして今、白骨温泉と白船グランドホテルは、1つの曲がり角に来ている。

白骨温泉と白船グランドホテルは事件後、社会とどう向き合ってきたか?

 東京在住の筆者から見る限り、白骨温泉としてはもちろん、白船グランドホテルとしても、事件後、現在に至るまで、あたかも沈黙を守ってきたように見えてしまう。

 実際問題として、社会とどう向き合ってきたのだろうか?

 「事件後、白骨温泉旅館組合のそれまでのWebサイトをいったんクローズした上で、組合としてのおわびを掲載しました。当館としても右へならえという感じでしたね。また、組合として、朝日、毎日、読売などの全国紙に謝罪広告を出しました」

 残念ながら、筆者はWebサイトはもちろん全国紙での謝罪広告も目にしないままで終ってしまった。ところでその後、マスコミから取材依頼はあったのだろうか?

 「当館へのテレビの取材依頼もありましたが、ご辞退し続けてきました」

 テレビの旅番組にあれだけ頻繁に登場していたのにもかかわらず、白船グランドホテルはもとより白骨温泉の主要旅館も、事件後、ほとんど登場しなくなった。結局、自ら出演を辞退し、テレビ局側も無理してまで取材要請をしなかったからということなのであろう。

 白船グランドホテルは組合の会合で入浴剤使用を否定し続けたわけだが、事件後、組合内での立場がいささか微妙になったのでは?

「そうですね。白船グランドホテルが結果的に事件を大きくしてしまったということで、当館として、自ら積極的に動くことはせず、組合での決定事項を粛々ととり行うようにしております」

 田中康夫県知事(当時)が中心になって、事件後(2004年11月)、長野県独自の温泉に関する基準(=「安心・安全・正直」な信州の温泉表示認証制度)を策定しているが、それに対しては白骨温泉として、あるいは白船グランドホテルとしては、どのようにコミットメントしたのだろうか?

 「白骨温泉としては当館も含め、ほとんどの旅館がコミットしていません。認証を受けようとしなかったということです」

 田中知事独特の派手なテレビ的演出で全国民に強烈な印象を与えてしまった2004年7月の出来事は、白骨温泉の方々に複雑な感情を抱かせたことは想像に難くない。温泉偽装と聞けば、パブロフの犬のように白骨温泉の入浴剤を連想するようにしてしまったのだから。

毎月、最終日曜日に実施している温泉粥の無料サービス(左)、湯めぐり手形で白骨温泉の温泉をめぐることができる(右)(出典:公式Webサイト)

 これまで白骨バブルを支えてくれた一般宿泊客への事後対応は、どのようにしたのか?

 「白骨温泉として『湯めぐり手形』を発行しまして、いらっしゃったお客様には無料でエリア内の温泉をめぐることができるようにしました」

 これは熊本県の黒川温泉でヒットした手法で、顧客サービスの向上策と位置付けられる。ツアーに参加した宿泊客には添乗員からご案内があるようだ。一般の個人客は、白骨温泉の公式Webサイトから見ることができる。

 「あと、シーズン中の毎月最終日曜日には、白骨温泉として、無料で名物の温泉粥をふるまうようになりました」

 これも顧客サービス向上策の一環。ツアー参加者でない場合は、やはり公式Webサイトを見れば発見できる。

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