田中康夫県知事が踏み込んだ、その時――白骨温泉・若女将が語る「事件の真相」(中編):嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(3/4 ページ)
「白骨温泉の白濁する湯は、実は入浴剤を入れていたものだった」……『週刊ポスト』のスクープに始まった事件は、TBSで長野県知事の抜き打ち調査が放送されたことにより、日本中が注目する大問題となっていく。旅館はその時、どう対応したのか?
週刊ポストのスクープ――白骨温泉の入浴剤投入が「発覚」した日
2004年7月、『週刊ポスト』が白骨温泉における入浴剤投入をスクープした。白骨温泉旅館組合が運営する公共野天風呂など3施設で、1996年ごろから湯が白濁しなくなり、入浴剤を入れていたという内容で、退職した関係者による“内部告発”のようだった。
これを受けて長野県温泉協会は、県内219カ所の温泉地にある全温泉施設に対して、入浴剤その他の投入の有無に関する調査書送付を決定した。長野県松本保健所は、白骨温泉の公共野天風呂に対して、7月14日から無期限の営業停止を指示している。
田中康夫長野県知事(当時)も動いた。同日、自ら「公共野天風呂」などを視察し、「自然の財産の上に胡坐(あぐら)をかいていたのではないか。私も含め、襟を正して心を入れ替え、信州の観光を立て直す決意だ」と語った。
白船グランドホテルとしても、今や自社の命運を左右する重大な局面であることを悟らざるを得なかった。さあ、どう対応する……!? ゆづるさんはこのときの対応を振り返る。「旅館組合の会合でも、県からのヒアリングに対しても、『今さら言えない』ということで、入浴剤投入を否定し続けました」
21日、長野県は県内の温泉施設調査結果を公表。新たに県内10施設での入浴剤投入が発覚したが、利用者に告知するなど悪質性なしという判断となった。
とりあえず一段落するかに見えた「白骨温泉入浴剤投入騒動」。しかし、このあと、誰もが予想し得なかった展開となる。
田中康夫知事、白船グランドホテルに踏み込む
7月22日、白船グランドホテルに田中知事が現れた。県庁に寄せられた“情報”にもとづき、抜き打ちで踏み込んだのである。しかも、同行の県職員にビデオカメラを持たせるという周到ぶりで。
館内の構造を知り尽くしているかのような正確さで、知事一行はホテルの中を歩き回った。そして入浴剤を保管している(浴場近くの)納戸に近づき、応対した若女将に対し納戸の扉を開けるよう要求したという。
普通なら、外部の人間がそのようなところへ迷わず行けるはずがない。明らかに、事情に通じた関係者による“内部告発”だ。
各種報道によれば、その後の展開は以下の通りだ。ホテル側は「夜勤の守衛しかカギを持っていない(から開けられない)。中にあるのはカラオケ機器だけ」などと言い逃れを試み、あげく、隠してあった入浴剤をこっそり持ち出そうとした瞬間を、“偶然”県職員に発見され、ビデオカメラにその一部始終を撮られてしまったということになっている。
そして、県職員の撮ったこのビデオ映像は、なぜかTBSによって全国に流される。これによって「事件」は一挙に全国民の注視するところとなったのである。
やはり言えなかった
今あらためて若女将のゆづるさんに当時の状況をお聞きしてみると、いささか話の異なる部分もある。
ただし、この抜き打ち調査時、入浴剤の使用を認めたものの、ゆづるさんが「昨年(2003年)のコマーシャル撮影時だけ」と発言してしまったことは事実のようだ。「やはり、どうしても言えなかった」ということか。
しかし実はこの時、知事一行は、同ホテルにあった入浴剤3本のうち1本は、(2003年ではなく)2004年4月製造であることを確認していたのである……(参照リンク)。
7月終わりといえば夏休みシーズンだ。年間を通じても最大といってよい夏の繁忙期を迎えていた白船グランドホテルは、この“調査”後もいつものように宿泊客への対応に追われ、途方もなく慌しい日常を過ごしていた。そんなある日、スタッフが血相を変えて飛んできた。「大変です! テレビにうちが出ています〜!!」
入浴剤投入のことなど知らない大多数のスタッフは何が起きているのかわからず、驚き、おののくばかりであった。やがて、今回の「内部告発」騒動は、以前トラブルを起こして同ホテルを退職した2人の男女による「逆恨み」が原因といううわさが流れ始めた。
しかし誰が告発したかは、もうここまできたら関係ない。これだけの大問題になった以上は、ホテルとして、一定のけじめをつける必要があった。
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