値上げって言わないで――首都高速、新料金体系の意図は?
現金は都内一律1200円、ETC利用者は距離別料金――9月20日に発表された、首都高速の新料金案が波紋を呼んでいる。2008年秋から導入されるかもしれないこの料金体系はなぜ導入されるのか? 首都高速道路に話を聞いた。
首都高速道路は9月20日、2008年度中に導入を目指す、首都高の新しい料金体系について料金案をまとめた。新料金案の最大のポイントは、ETCを利用した距離別料金制。現在首都高では均一の料金体系を採用しているが、この料金案が通れば、東京線・神奈川線・埼玉線いずれも、走行距離に応じて50円きざみで通行料が上がることになる。新料金体系と現行料金は以下の通りだ。
- 東京線:初乗り400円→最大1200円(現在は700円)
- 神奈川線:初乗り400円→最大1100円(現在は600円)
- 埼玉線:初乗り300円→最大550円(現在は400円)
上記の料金は原則としてETCの利用者が対象で、現金で支払う場合には入り口で最大料金を徴収する。都内なら乗った距離が何キロでも1200円だ。
しかし「そもそも、首都高の料金は将来的に無料になるはずではなかったっけ?」と記憶にある方も多いだろう。新料金について「実質的な値上げだ」と批判的な声は多いが、なぜこのタイミングで距離別料金を導入するのだろうか。首都高速道路に取材した。
距離別料金を導入する目的とは?
首都高速道路では今回の料金変更を「償還主義と公正妥当主義※によるものであり、会社の利潤は含まれない」としている。
2005年に首都高速道路公団は民営化し、首都高速道路株式会社となった。現在首都高は、独立行政法人の高速道路保有・債務返済機構が保有しており、首都高速道路はここから首都高を借りて運営し、リース料を支払うという形になっている。
民営化の際に取り決めたのが「償還主義」だ。償還主義とは、会社成立から45年でリース料と管理費を返済し、債務を完済したら首都高の通行料を無料にするというものである。首都高速道路が返済しなくてはいけない金額は、リース料12.7兆円+管理費3.2兆円で、総額15.9兆円。つまり2050年までの45年間に首都高の通行料として総額15.9兆円を得られれば、それ以降は首都高の通行量は無料になる、という取り決めになっている。
実質的な値上げでは?という問いに対して首都高速道路は、「利用者の分布を見て、平均的な利用の人が700円(東京線の現行料金)程度になるようにしている。値上げではない」と回答している。
しかし距離別料金を導入する最大の理由は、現在の料金体系では、2050年までに15.9兆円の収入を得るのが難しいと判断したことにある。「そもそも民営化したときに結んだ協定は、距離別料金を導入することが前提となっていた。新しい道路が増えて首都高のネットワークが広がることと距離別料金を導入することで、完済を見込める」(首都高速道路広報部)
短距離利用はしやすくなるのか
距離別料金を導入するもう1つの目的は、利用者の不公平感の是正だとしている。これまで首都高が均一料金だったのは、「入口で通行券を発券し、出口で回収すると時間がかかる」「土地が高いため、出口に料金所のスペースを確保するのが困難」という理由があったため。「大量の交通を円滑に処理するには、入口で一律料金を支払うだけで済む仕組みが適していた」(同上)
事情が変わったのは、ETCが登場、普及しつつあるためだ。ETCであれば、出口に精算所を設けなくても、ユーザーの利用距離を把握できる。そのため、今回の距離別料金制ではETC利用が大前提になっている。一部ETC利用者以外にも対応は考えているものの、原則としてETCを利用しない自動車には、割引はないに等しい。
首都高速道路では「長距離利用でも短距離利用でも同じ料金というのは不公平だという声があったので、それを是正する目的。また、首都高の道路ネットワークが発達する中で、短距離だけ乗って渋滞を避け、再度乗るなどの利用方法も求められている。距離別料金を導入することでユーザーの自由度が増し、利用しやすくなる」と説明している。しかし最低料金で走れるのは3キロメートルまでであり、最低料金で2回通行すれば、現行の料金1回分よりも高くなる。ETC割引があるとはいえ、「実質的な値上げ」と批判されるのは仕方ないといえるだろう。
ETCがないクルマは電子マネーで
意見募集案には、ETCを利用していないユーザーへの対応策も盛り込まれている。1つはすでに発行されている「ETCパーソナルカード」だ。これは“クレジットカードユーザーでなくても持てるETCカード”のようなもので、ETC用の機械を自動車に設置して利用する。高速道路6社が共同運営しており、デポジット料4万円を支払うことで、クレジットカードを持っていないユーザーでもETCを利用できるようになる。
もう1つが電子マネーと無線装置(名称未定)を併用する方法だ。利用者はETCよりも簡便に設置できる無線装置を自動車に付けておく。首都高を走るときは、係員がいる入口から入り、電子マネーでまず最高額を支払う。出口で無線装置がETCの無線をキャッチすると、差額が自動的に電子マネーで払い戻されるというシステムだという。何の電子マネーが採用されるかは未定だが、すでに利用されているものになる見込みだ。
意見は首都高の公式サイトへ
なお、今回発表された料金案は「意見募集案」であり、決定したものではない。首都高速道路では9月21日から10月31日まで意見を募集し、その意見を反映させた申請案を2008年春までにまとめ、2008年秋から距離別料金への移行を目指すとしている。
意見を募集するのは、「首都高距離別料金サイト」や、首都高のPAや料金所で9月より配布する「距離別料金プレス Vol.4」など。上記サイトでは、ニンテンドーDSLiteやETC車載器などを賞品とする「距離別料金の意見募集案に関するアンケート」を実施中なので、料金について率直な意見を送ってみるのもいいのではないだろうか。
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