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電子マネー「nanaco」はどこが優れているのか(前編)神尾寿の時事日想

セブン-イレブンで利用できる独自電子マネー「nanaco」が好調だ。筆者自身を振り返っても、“ほぼ毎日使う”電子マネーとなっている。他のFeliCa決済方式と比べたとき、nanacoはどこが優れているのだろうか。

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 6月13日、セブン&アイ・ホールディングスが、電子マネー「nanaco」の発行件数が300万枚を超えたと発表した(6月14日の記事参照)。サービス開始からわずか52日で、全国展開が5月28日からだったことを考えると、nanacoの普及スピードは驚くべき速さだ。このままいけば「初年度1000万枚」の発行目標達成は言うに及ばず、FeliCa決済普及の牽引役にもなりそうだ。

 筆者もおサイフケータイでnanacoを使用しているが、サービス開始から2カ月足らずで利用率が急上昇。“ほぼ毎日使う”FeliCa決済方式の1つになっている。

 ちなみに筆者の生活圏はFeliCa決済を利用するには恵まれていて、自宅からほぼ等距離にセブン-イレブン(nanaco)とサンクス(Edy)があり、駅までの途上にドラッグストアのマツモトキヨシ(Edy)、総合スーパーマーケットのサティ(WAON/iD/Suica)、レンタルビデオ店のGEO(Edy)がある。駅ではもちろんSuica/PASMOが使える。また移動は鉄道とタクシーが中心だ。タクシーはいつもiDかEdyが使える会社を選ぶようにしている。

 このような環境下で生活し、各FeliCa決済の利用状況をカウントしているのだが、気がつけば確かにnanacoの利用が急速に増えている。あくまで筆者の利用スタイルにおいてだが、利用率は鉄道系のモバイルSuica、近所のスーパーやタクシーなどで何かと日常利用がしやすいiDに次いで、nanacoは3番目によく使うFeliCa決済になっている。nanacoポイントも着実に貯まっており、サービス開始からの累積で1200ポイントに達した。

「2つの距離」で優れるnanaco

 なぜ、筆者はnanacoをこれほど「よく使うようになった」のか。また、客観的に見ても、なぜnanacoは急速に普及しているのか。

 その理由の1つは、nanacoが「2つの距離」を縮める努力をしている点にある。

 「2つの距離」の1つめは、利用場所とチャージ拠点の距離である。周知のとおり、プリペイド型の電子マネーは利用前に「チャージ(入金)」が必要であり、その環境をどのように整備するかが、その方式の普及と利用促進における鍵になる。プリペイド型電子マネーは常に残額不足の可能性があるため、チャージできる場所が実際に使う(決済する)場所に近ければ近いほど使いやすく、利用率が高くなる傾向があるのだ。

 この特徴が顕著に表れているのが鉄道系電子マネーで、改札機や駅ナカ・駅チカ店舗といった利用場所と、駅内の券売機や駅ATM、自動改札(オートチャージ)などチャージ拠点の「距離が近い」ことが、普及と利用促進において有利に働いている。逆にいえば、鉄道系電子マネーは“駅から離れる”とチャージ拠点との距離が開き、残額不足時の不安が出て使い勝手が悪くなる。JR東日本がモバイルでチャージ可能な「モバイルSuica」を推す理由の1つには、駅からの距離に縛られずにSuica電子マネーの使い勝手を良くしたいという考えがある。

 また、沖縄におけるEdy普及の取材でも、「Edyチャージ機があるか」がその店舗でのEdy利用率や来店促進効果に影響していた(5月21日の記事参照)。例えば沖縄ファミリーマートはEdy導入時から現金チャージ機の店内設置を強く求めたが、それによって「Edyチャージ目的に来店するお客様が増えた」(沖縄ファミリーマート常務取締役管理部長の大城健一氏)という。これにより沖縄ファミリーマートは、Edyマイル獲得ニーズに触発された主婦層を、コンビニの新たな顧客層として獲得することに成功している。

 この「利用場所とチャージ拠点」の距離でみると、nanacoの場合は実質ゼロである。nanacoはセブン-イレブンのレジでチャージし、そこで使う方式になっている。POSレジの「割り込み入金処理」ができるので、商品の合計額が出てから残額が足りないと分かっても、その場でnanacoに入金してすぐに支払いをすることができる。

 nanacoのサービス開始当初、筆者はおサイフケータイ版のnanacoがモバイルでのチャージ(エアチャージ)ができないことに不満を持っていた。モバイルSuicaやEdyに慣れていると、クレジットカードや銀行口座からキャッシュレスでチャージできた方が便利だと感じる。しかしこの方法を使うには、ユーザー側に「慣れと知識」が必要であり、今のおサイフケータイの普及率や利用率を鑑みると、どうしても“リテラシーの高い一部のユーザー”向けの利便性にとどまってしまう。そう考えると、当初はレジでの現金チャージに一本化し、その使い勝手をよくするというセブン&アイのスタンスは確かに正しい。しかもnanacoの場合、レジチャージのオペレーションフローが練り込まれており、スタッフ教育が行き届いているためか、「チャージから決済」の流れがスムーズだ。レジでのチャージはSuica電子マネーや一部店舗でEdyも対応しているが、スタッフの対応スキルの高さと均質さでは、nanacoが最も優れていると感じる。

対面サポートで利用者との距離も近い

 また、レジでの現金チャージには、ユーザーの対面サポートを自然に行えるという副次的なメリットがある。これが2つ目の距離、すなわち利用者との距離である。

 FeliCa決済の普及で重要なのは“最初の1回”をどのように使ってもらうかであり、その後押しをするには店員による「対面サポート」が最も効果的だ(参照記事1記事2)。この対面サポート窓口が身近にあるかどうかが、普及速度はもちろん、利用率向上にも大きく影響する。

 ここでも鉄道系電子マネーと、他のFeliCa決済の今までを比べると分かりやすい。

 鉄道系電子マネーは利用エリア(駅と駅周辺)に、電子マネーの提供事業者(鉄道会社)がいるので、対面サポートや利用促進キャンペーンを行いやすい。例えばJR東日本では、定期的にSuica利用促進キャンペーンを実施し、駅員がSuicaについての基本的な問い合わせに答えてくれる。

 EdyやiD、QUICPayなどその他のFeliCa決済では、利用店舗は決済事業者の「加盟店」に過ぎない。そのため店頭で利用促進や対面サポートをどれだけ行うかは、加盟店側のスタンスによってかなりの温度差がある。実際、筆者はこれまで店頭でFeliCa決済を使おうとして、店員に面倒くさそうな対応をされたことが少なからずある。また加盟店端末のトラブル発生で嫌な対応をされたことも一度だけではない。こういったお店側の意識の低さは、iDを筆頭にFeliCaクレジット加盟店で多く遭遇した。FeliCaクレジットの加盟店獲得は過当競争気味なので、店舗側のモチベーション向上やサポートがしっかりできていないのではないだろうか。

 一方nanacoの場合は、電子マネーを提供・推進する場所が、まずは「自社店舗網」であるため、店頭での普及や利用促進は当然ながら積極的だ。チャージと利用で利用者との接点になる「レジ前」を、対面サポートの場としても活用している。Suicaなど鉄道系電子マネー以上に、利用店舗やスタッフと利用者の距離は近い。

 筆者は、セブン-イレブンの店員が主婦やお年寄りの来店者に、nanacoチャージや決済のやり方、レシートの見方について丁寧に説明しているシーンを、これまで何度も見かけている。こういった地道な対面サポートをしっかり行っているためか、サービス開始後約2ヶ月の今では、近所にある複数のセブン-イレブンで、nanacoを使う人を見ることが多くなった。特に主婦層やお年寄りの利用者も見かけることが、iDやSuica電子マネーとの違いを感じるところだ。流通系電子マネーの優位性は「店舗網」という利用者との“リアルな接点”にあるが、nanacoは特にその利点をフル活用している印象だ。

 nanacoはFeliCa決済とプリペイド型電子マネーが抱える「距離の問題」をセブン-イレブンのビジネススキームに取り込み、解消することで使いやすい電子マネーになっている。この一体的な体制が、nanacoを“使いやすい・使いたい”とユーザーに感じさせる一因になっており、実際の普及速度の速さや利用率向上にも効いていると言えるだろう。

 後編では、nanacoのポイントプログラムにフォーカスし、その魅力について分析したいと思う。

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