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“1週間コンタクト付けっぱなし”は当たり前になるか――ボシュロム ピュアビジョン

コンタクトレンズは夜寝るときには外すもの……そんな“常識”がくつがえるかもしれない。ボシュロムの新製品は、新素材を採用した「1週間付けっぱなし」が可能なのだ。

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 現代日本では、近眼の人が珍しくない。記者の身の回りでは、裸眼の人はむしろ少数派で、メガネやコンタクトレンズを使っている人のほうが多いくらいだ。

 コンタクトレンズでよくやってしまうのが、「コンタクトを付けたままで、うたた寝してしまった」という失敗だ。眼科では大抵「コンタクトを外してから寝てください」と指導されるが、うっかり寝てしまって、気づいたら朝……という経験がある人も少なくないのではないだろうか。

 5月16日、ボシュロム・ジャパンはソフトコンタクトレンズの新商品「ボシュロム ピュアビジョン」を発売した。ピュアビジョンの最大の特徴は“1週間付けたままでOK”という点だ。これまでのコンタクトレンズと違い、夜寝るときも外さなくて構わない。

 これまではソフトコンタクトレンズでも「夜は外すもの」だったのに、なぜピュアビジョンは“付けっぱなし”でOKなのだろうか? 従来のコンタクトレンズとの違いをまとめた。


ボシュロム・ジャパンの「ボシュロム ピュアビジョン」。オープンプライスだが、実売予想価格は近視用が3500円程度、乱視用が4500円程度(いずれも4枚、片目の値段)

ソフトコンタクト市場は安定成長中

 ボシュロムが発表した2006年度のデータによれば、現在国内でコンタクトレンズを利用している人の数は1648万人。過去5年を平均すると、毎年0.4%ずつユーザー数は伸びている。市場規模は990億円。こちらも年1.2%ずつ伸びており、安定成長している市場といえる。

 コンタクトレンズは、ハードコンタクトレンズとソフトコンタクトレンズに大別される。ソフトコンタクトレンズはさらに、手入れが必要な従来型ソフトと、1日や1週間、2週間など一定期間使ったら廃棄するディスポーザルレンズに分けられる。

 下のグラフにあるように、現在コンタクトユーザーの主流派はソフトコンタクトレンズユーザーだ。中でも使い捨てのディスポーザルレンズのユーザーは多い。


ディスポーザルレンズはソフトレンズの1種。厳密には1day以外の製品は手入れが必要で「頻回交換レンズ」と言うべきだが、使い捨てレンズと総称されることが多い

日本のコンタクトレンズ市場。ユーザー数(装用者数)では約半分、市場規模では約8割がディスポーザルレンズとなっている。ハードや従来型ソフトコンタクトレンズと、1dayディスポーザルを併用する人も多い

 ボシュロムのピュアビジョンは、1週間使ったら廃棄するタイプのディスポーザルレンズで、シリコーンハイドロゲルという新素材を使っている。ポイントは上にも書いたとおり、1週間、夜寝るときも着けたままでいいという点だ。ピュアビジョンは従来のディスポーザルレンズとどこが違うのだろうか。

連続装用と終日装用の違い

 コンタクトレンズは使い方によって「終日装用タイプ」と「連続装用タイプ」に分けられる。

 ほとんどのコンタクトレンズは、終日装用タイプ、つまり朝つけて、夜寝る前に外す使い方を想定している。ハードでもソフトでも、1dayのディスポーザルタイプ以外は外したときの手入れ(洗う、液に漬けるなど)が必要になる。1日の装着時間は10時間程度が推奨されている。

 これに対して連続装用タイプは、1度目につけたら、そのまま一定期間(1週間など)付けっぱなしにするものだ。ソフトコンタクトレンズの連続装用タイプは従来タイプと同じ「ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)」という素材が使われている。しかし主に治療用に使われるもので、日本では0.4%しかユーザーがいない。

 連続装用タイプが一般に使われないのは、長時間のコンタクトレンズ装着、特に付けたまま寝るという行為が、目に高い負担を与えるためだ。

 角膜には血管がないので、必要な酸素は外気や涙液から取り入れなくてはならない。十分に酸素が届かないと角膜は肥大し、一定の厚さを超えると、濁りを生じて見えにくくなる。人間はまばたきをすることで、コンタクトレンズが少し浮き上がり、レンズと眼球の間にある涙液が交換される。涙液の交換によって、目に酸素が行き渡り、レンズの吸着・固着を防ぐのだ。しかしコンタクトレンズを付けたままで目を閉じると、レンズの回りの涙液が交換されなくなるため、酸素の交換が行われにくくなり、タンパク質や脂質の汚れが眼球に付くなどして、角膜にトラブルを起こしやすくなる。

 コンタクトレンズによる角膜のトラブルは、ひどいときは失明に至るケースもある。それだけに、眼科医は連続装用レンズを処方することに対して慎重だ。実際、1週間連続装用レンズを使い始めたものの角膜にトラブルを起こし、終日装用タイプに切り替える人も少なくないという。

新素材・シリコーンハイドロゲルとは?

 ピュアビジョンには、従来のソフトコンタクトレンズとは異なり、シリコーンハイドロゲルという新素材が使われている。シリコーンハイドロゲルの特徴は、シリコンと高分子素材をうまく配合することにより、きわめて高い酸素透過性が確保されている点にある。

 しかしシリコーンハイドロゲルは、酸素透過性が高い代わりに、疎水性が高い(レンズが水をはじく)、透明度が低い、汚れが付着しやすい、脆いといった問題があった。

 そこでピュアビジョンでは、従来ソフトコンタクトレンズに使われてきた素材と、シリコーンハイドロゲルを組み合わせ、特殊加工を施すことによって、酸素透過性が高く、かつ親水性が高い(=汚れや細菌が付着しにくい)レンズを実現した。また、レンズのデザインを工夫することにより、レンズの内側と外側の涙液循環を均一にし、目を閉じているときでも一定の涙液層を確保でき、レンズが角膜に張り付きにくいようにしたという。

 ピュアビジョンでは、目を開いた状態で裸眼の98%、目を閉じた状態で裸眼の94%の酸素が角膜に届き、付けたまま就寝しても角膜肥大が起こりにくい。涙の量やアレルギー体質などが原因ですべての人が連続装用できるわけではないが、臨床試験では98%の被験者が1週間の連続装用に成功したという。

2週間終日装用 VS 1週間連続装用


ボシュロム・ジャパンの井上隆久社長。シリコーンハイドロゲルについて「数十年に1回の素材革命」と話す

 コンタクトレンズ業界にとっては注目の新素材であるシリコーンハイドロゲル。ボシュロム・ジャパンはこの素材を連続装用レンズに適しているとしてボシュロム ピュアビジョンを出したわけだが、眼科医を中心に依然として「連続装用は危険」とする考え方も根強い。

 実は、日本で発売されるシリコーンハイドロゲルを使ったコンタクトレンズは、ピュアビジョンが初ではない。ジョンソン・エンド・ジョンソンが2007年3月に発売した「アキュビュー アドバンス」「アキュビュー オアシス」は、シリコーンハイドロゲルを使ったことにより、高い酸素透過性と良好な装用感の両立を実現した、とアピールしている。いずれも2週間終日装用タイプのディスポーザルレンズで、特にアキュビュー オアシスはコンタクトレンズの乾きが気になる人向けのプレミアム製品という位置づけになっている。


ジョンソン・エンド・ジョンソンビジョンケア カンパニーのアキュビュー アドバンス(左)と、アキュビュー オアシス(右)

 アキュビュー アドバンス/オアシスやボシュロム ピュアビジョン以外にも、今後シリコーンハイドロゲルを採用したディスポーザルレンズが登場してくることになりそうだ。何日で使い捨てるか、また連続装用か終日装用かは、メーカーがどのように製品を設計し、厚生労働省の認可をどう取るかで変わってくる。

 「ジョンソンさんの新製品とピュアビジョンでは同じ素材を使っているが、ジョンソンさんは2週間終日装用を、うちは1週間連続装用を選んだということ。今後日本でも、(ボシュロム以外からも)シリコーンハイドロゲルを使った連続装用タイプの新製品が出てくるだろう。連続装用へのニーズは非常に高いので、市場に受け入れられる自信がある」(ボシュロム・ジャパン井上社長)

 ボシュロム・ジャパンが根拠とするのは、コンタクトレンズユーザーに対して行った使用実態の調査データだ。終日装用タイプでは1日10時間程度の装用を推奨しているが、1日16時間以上の長時間装用をしていると答えた人は、「頻繁にある」が40%、「時々ある」が44%。またレンズを付けたままのうたた寝については「頻繁にある」が33%、「時々ある」が49%。レンズを付けたまま朝まで寝てしまうかという問いについては「頻繁にある」が10%、「時々ある」が28%となっている。

 「実際の利用シーンでは、コンタクトレンズを使用するためのコンプライアンス(編注:使用上のルール)が守れていないのが現実。また、ライフスタイルが24時間型になってきており、“起きたらすぐに見える”連続装用へのニーズは非常に高いはずだ。また、1dayディスポーザルレンズが伸びた理由には、ケアが要らないという点も大きかった。その意味でも、1週間連続装用(のピュアビジョン)は有利なはず」(井上社長)

 日本では1週間の連続装用タイプとして発売されるピュアビジョンだが、米国では同等の製品がすでに30日連続装用レンズとして販売されている。

 ピュアビジョンをきっかけに、日本でも連続装用レンズが普及するのか。今後の展開に注目したい。

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