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ロサンゼルスMBA留学日記:

僕が留学した理由――MBAには本当に価値があるのか

経営が分かるようになる、という触れ込みのMBA(経営修士号)。しかし実際に何を学び、その知識をどうビジネスに活かせるのでしょう。ロサンゼルス在学中の現役MBA留学生が紹介します。

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著者プロフィール:新崎幸夫

南カリフォルニア大学のMBA(ビジネススクール)在学中。映像関連の新興Webメディアに興味をもち、映画産業の本場・ロサンゼルスでメディアビジネスを学ぶ。専門分野はモバイル・ブロードバンドだが、著作権や通信行政など複数のテーマを幅広く取材する。


 初めまして、今回連載を担当することになった新崎幸夫といいます。現在米国ロサンゼルスにある、南カリフォルニア大学(USC)に留学中です。ビジネスを学ぶ「MBA」というプログラムを履修しています。

 ……ここで突然ですが、MBAっていったい、何なんでしょう?

 言葉の意味でいうなら、MBAは「Master of Business Administration」の略です。日本語でいうと「経営修士号」となります。修士ですから、2年間のプログラムということになります(ヨーロッパなどでは1年制のプログラムも存在しますが)。一般には、大学を卒業した人間が社会人経験を数年積んだあと、大学院(=ビジネススクール)に戻ってビジネス関連の知識を学び直す……という、その修士課程を指します。


筆者が通うUSC・ビジネススクールの校舎。USCは映画「フォレスト・ガンプ」など、複数の映画撮影の舞台にもなっている。ちなみに安倍晋三首相も一時留学していたらしい

 MBAのポイントは、異なるバックグラウンドの人間が集まり、知識・経験を共有しつつ学ぶこと。米国のMBAは特にその傾向が顕著だと思いますが、経営コンサルタント、医学生、エンジニア、軍人、弁護士、インベストメントバンカー(=ゴールドマンサックスなど投資銀行で働く人間)など、実に多様な人材がビジネススクールに集います。そして戦略、会計、マーケティング、ファイナンス等々、マネジメントに必要と思われる基礎知識を一通り学ぶわけです。

 各人それぞれ目的は違うでしょうが、大まかな共通点はみな、将来何らかの経営(マネジメント)に携わりたい、と思っていることでしょう。もちろん、元働いていた分野でキャリアを積むのも経営者への道ですが、MBAは各教科を体系立てて学べるのが魅力です。そんなわけで、志をもった20代半ば〜30代の社会人が、アメリカなら「GMAT」という英語の学力テストで好スコアを出したあと、各校に出願するという流れになっています。

問われるMBAの「価値」

 しかし、実際のところMBAにどれほどの価値があるのでしょうか?? これが、MBAに興味を持った/MBAを目指す人の一番知りたいところでしょう。この問いを考える上で、とりあえずいくつか押さえるべきポイントがあります。1つは給料が上がるということ、もう1つは良質な人脈を形成できるということ、最後が純粋に「勉強する内容が自分のためになる」ということです。

 ちょっと検証してみましょう。まず給料に関してですが、MBAは一般に「ある程度箔がつく」と考えられています。通常、MBAホルダーは学位をテコにして転職を行い、よりよい職を狙うこととなります(社費派遣の学生であれば、もちろん派遣元の企業に戻って経営者を目指すでしょうが)。前述の学力テスト・GMATの主催団体である「GMAC」が発表したところでは、MBA卒業生は1年目から約9万ドル(日本円にして1000万円強!)ものサラリーを提示されるようです(ニュースリリース参照)。MBAの学費は2年で数百万円するのですが、これだけ高給が約束されれば考えてもいいかな、と思いますね。

 しかし実を言うと、このデータは必ずしも日本の市場に当てはまりません。日本の場合はそこまでMBAが評価されていないように思います。外資系企業でならMBAが有効に働くのですが、例えば日本の電機メーカーなどに行って「MBAホルダーです」とアピールしたところで、「はぁ、要するに2年間休職してから中途採用に応募してきた人間でしょ」という扱いにしかならないことも多いようです。もちろんこの辺は会社によりますが、単に給料目当てでMBAを取りにいくと、場合によっては泣きを見ることもあります。

 人脈の点はどうでしょうか? MBAには、企業から派遣される“幹部候補生”も多く存在します。私費であっても、それなりの夢を持った上昇志向の強い人間と交流を図れるわけですから、確かにMBAは人脈形成に役立ちそうです。

 とはいえ、今時ブログもあればmixiもあります。何もわざわざ高い学費を払わなくたって、人脈を拡大することは可能だ、と考える人もいるでしょう。人脈だけを目当てに、例えばアメリカに2年MBA留学するのは、生活費なども考えるとベストチョイスではないかもしれません。

 では、勉強そのものが役に立つ――というのはどうでしょうか? これについては否定的な意見が多いようです。曰く「しょせんは机上の空論だ」「頭でっかちになるだけだ」「浅く広く学ぶので、本当にビジネスに必要な知識は何ひとつ身につかない」……etc。

 ただ、ちょっと待ってほしいな、と思います。個人的には最近、MBAの勉強って結構面白いなと感じています。「ディスカウントキャッシュフロー」やら「サプライチェーンマネジメント」やら、今まで全く知らなかった知識が身についていくのは楽しい。MBAを批判する方の中には、ビジネススクールの生徒がどんな勉強をしているかいまひとつ把握しないながらも、なんとなく「無駄な勉強をしていそう」と想像で拒否反応を示している人も多いのではないでしょうか。


現在筆者が使っているテキストの一部。米国MBAであれば、テキストは当然全部英語。「明日までに50ページ読んできて」などと無理な要求が平気で出されるので、留学生は苦しむことに……

 というわけで、前置きが長くなりましたが、本連載ではMBAの価値を検証する意味でも、MBAで何を学ぶのか……という点について、ちょっとずつ紹介していきたいと思います。それだけでは面白くないので、現実の世の中――特にIT業界――の動向を眺めながら、勉強したことがどう企業の戦略に応用できるのかという点を考えていきたいと思います。さらにオマケとして、現在筆者がロサンゼルスでどんなMBA留学生活を送っているかについても、多少なりと紹介していければと思います。

企業の戦略を、特定のモデルに当てはめる

 ではまず、手始めにMBAというと連想しがちな「戦略」に絡んだ話題を2、3取り上げてみましょう。最終的にはアカウンティングだってファイナンスだって企業戦略と関係するわけですが、“戦略”そのものの授業というのも存在します。

 例えば、「5フォース分析」という用語があります。

 5フォース分析とは、米国の経営学者であるMichael E. Porterが提唱したモデルです。市場(マーケット)の競争環境を分析するには、だいたい5つの要因を見るといいのではないか……という考え方です。

 これを考えることが何の役に立つのでしょうか? 1つは、新規事業者が特定の市場に参入しようとするとき、そのマーケットがどれだけ“おいしい”市場かどうかを判断できることにあります(詳しくは次回に説明)。競争状況が激しければ参入を見送るし、逆に競争が少ない市場を発見したなら、すぐ参入する――といった具合です。もちろん、既存事業者が自分の今いるマーケットを分析して、この市場を「おいしい」市場として保ち続けるためにはどうすればいいか、などと考えることもできます。

 「ゲーム理論」、というのも有名な用語です。特定のルールが存在する状況で、プレイヤーがどう行動するかを予測するモデルです。プレイヤー同士が疑心暗鬼に陥って、望まないのに双方にとって不利になる行動をとることをゲーム理論上“囚人のジレンマ”といったりします。有名な言葉ですが、これも追って詳細を説明します。

 ビジネスの現場で言うと、寡占マーケットなどでゲーム理論を当てはめて企業戦略が考えられることが多いようです。プレイヤーが少ないだけに、「相手の出方を読みあう」という状況が発生するからです。もちろん応用範囲は広く、さまざまな分野、例えば株の応札などでゲーム理論が機能することもあります。

 「コストリーダーシップ」「差別化戦略」などもよく聞く言葉ですね。これらをまとめたモデルもあります。要は、安売り戦法をとるのか、多少高くてもよいクオリティのものを作るのか、といった議論ですが、どんなときに安売りを仕掛けると良くて、どんなときに悪いかといった話も出てきます。

 これらは、話を単純化するために極限まで余分な要素を削ぎ落としたモデルです。そのため、実際の世の中にはそのまま当てはまらない……という批判もあるでしょう。これは教授陣も認めていて、「これはあくまでトイモデル(玩具のようなモデル)だよ」と断りを入れたりもします。MBAの生徒の中にも「何の役に立つのかサッパリ分からん」と笑いつつ、とりあえず勉強している人間が複数います。

 ただ大事なことは、これは何かを教えてくれるものではなく、どうやって考えたらいいかの概略を示してくれる「考えるためのツール」だということです。ある知り合いのコンサルタントは「モデルを馬鹿にしてはいけない。それはあなたが使いこなせていないだけだよ」と、興味深いコメントをしていました。まあ確かに、百戦錬磨の現場監督はモデルに頼らずとも直感で勝負できたりするのでしょうが……はたしてモデルが本当に有効かどうか、この辺を見極めるのは今の筆者には難しいところですが。

 ともあれ、これらを知っていて損をすることはないでしょう。次回以降は、これらのモデルを実際の世の中に当てはめてみたいと思います。筆者は通信業界を取材してきたバックグランドがありますので、そのあたりの企業を主に取り上げると思いますが、状況に応じてタイムリーな企業の話題も拾っていければと思います。どうぞよろしくお願いします。

背筋も凍る「コールドコール」を楽しむ方法

 米国のMBAでは、戦略の授業というと大抵、ディスカッションベースで授業が進行するのが常です。

 このディスカッション、なかなか緊張を強いられるものなのです。何しろ教授が「この企業がとった対策についてどう思う、はいそこの君、メリットとデメリットをまとめて」と、いきなり話題を振ってくるので(これをコールドコール=Cold Callと言います)、生徒は文字通り背筋の凍る思いをします。言語にハンデのある留学生はもちろん、米国生まれの生徒も大なり小なりプレッシャーを感じているようです。

 しかし、そこを楽しんでしまうのが米国MBAの流儀。ある日、とある生徒がクラスメートにこんなメールを一斉配信しました。「今度の戦略の授業で発言するやつは、コメントの中に特定のフレーズを織り込むよう工夫すること。もちろん、極めて真面目に、文脈から考えてそのフレーズが浮いて聞こえないように注意すること」

 そして、戦略の授業当日。授業開始後、みんながそのメールを忘れかけた頃……その提唱者が手をあげて、見事「When men were men」(男が“漢”だった時代には、ぐらいの意味でしょうか)というフレーズを織り込んで発言してみせました! みんなは必死で笑いをかみ殺しています。しかし教授は、特に何も気付かないようす。

 その後しばらくして、それに触発された別の生徒が手を上げました。メールに記載されていたフレーズは2つだけ。残る1つを織り込んで発言してみせたのですが……正直明らかに不自然です(笑)。クラスは爆笑の渦に包まれ、そしてみんなが発言者に感動の拍手を送るという、訳の分からない展開になってしまいました。

 そもそも、選んだフレーズが悪かった。「like a monkey in a tree trying to saw off the branch」(「自分が座っている木の枝を切ってしまおうとするサルのように」:愚かなことをしている、ぐらいの意味でしょうか?)という長いフレーズで、これを織り込むのはかなり無理があったというところでしょう。さすがに教授も「妙なフレーズを使うやつだな」と何らかの異変に気づいたらしく、みんなと一緒に笑っていました。

 ともあれ、これに気をよくした提唱者は、次回も特定のフレーズを指定することを宣言。クラスメートたちもこの企画は面白いということで、ノリノリで参加しているようです。


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