「共存文化」のダイハツがとるべき世界戦略とは池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)

» 2015年07月21日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

e:S テクノロジー:ボディ構造

 ボディは高張力鋼板の効果的な配置と、骨格部材の見直し、部品の可能な限りのストレート化などで軽量化を実現している。

 クルマに詳しい人にはここまでの解説でダイハツが何をやっているかがざっくりと分かるだろうが、何も全部を理解する必要はない。要は軽自動車を中心としたコンパクトカー作りの技術で世界最先端にあるということが理解できればいい。

国内マーケットの現状

 さて、国内の軽自動車マーケットでは、主流となるクルマは3種類ある。車高別に低・中・高とバリエーション展開される。ダイハツの場合、一番車高が低いクラスを受け持つのはミラ・イースだ。中車高はムーブ、高車高はタント。この展開方法はスズキと全く同じで、現実的な軽自動車ユーザーのニーズに対応している。

 流れとしては、中車高のムーブがもはやスタンダードになっていて、それ以上、つまり自転車をそのまま積みたいというようなニーズに応えるのがタントとなる。タントは登場以来のマーケットリーダーで、高車高軽自動車のパイオニアとしてがっちり利益回収を続けている。ライバル、スズキの競合車はスペーシアだが、今のところタント有利の展開は変わらない。ところが安心できないのは、伏兵ホンダのN-BOXが好調で、タントの一人勝ちは過去のものになり、むしろ逆転されている。

 低車高のミラ・イースのクラスは、現在厳しい状況を迎えている。法規により全長全幅が限られている軽自動車の場合、上に拡大する以外にスペースの取りようがない。そこで低車高だと、どうしても昔ながらの狭い軽自動車になってしまうのだ。各社は悩んだ末、ホンダは低車高でも他社より背丈を上げたN-ONEを出した。スズキは「小ささ」を逆手にとって、とことん軽量なアルトを出してきた。ダイハツの場合、ミラ・イースが恐らく数年中にモデルチェンジを迎えるので、この先行2社のやり方を見た上で、どういうクルマに仕上げてくるかが見所になる。筆者の感覚とすれば、アルトに近い戦略になりそうだ。

ダイハツの海外戦略

 世界戦略の話はどうなっているのだろう。日本の軽自動車メーカー、特にダイハツとスズキはコンパクトカーの製造技術において世界一の実力を持っている。このクラスの難しさは、コスト制約が大きいところにある。自動車全体で見たときに、世界のトップは日米独の3カ国で争われているが、米国にはコンパクトカー作りのノウハウがない。ドイツは複雑な仕組みを好むところがあり、必然的に値段が上がる。ローコストで高い目標をクリアしなくてはならないコンパクトカーでは日本が有利な状態が続いているのだ。

 そして実は、今後世界の自動車マーケットで大幅な飛躍が見込まれているのは、このコンパクトカーだ。現在のコンパクトカーのマーケットはインドとASEAN。インドではスズキがリードしているが、ASEANではダイハツがリードしている。

 ダイハツは1993年にインドネシア第2の国策自動車メーカー、プロドゥア社が設立されたときに20%を出資して株主になった。プロドゥアではダイハツの各車をOEM生産しており、これまで高いシェア率を獲得してきた。またASEAN内では関税がいらない自由貿易となっていることから、マレーシアに足がかりを持つことで、インドネシアやタイなどへの輸出も圧倒的に有利になるのだ。

 ところが、プロドゥアのライバルであるプロトンが先ごろスズキとの提携を発表した。国内での終わりなき戦いが、アジアに飛び火したわけだ。これまで日本の進んだ技術で高い競争力を誇ってきたダイハツにとって、プロトンとスズキの提携は手痛いニュースになっただろう。20年かけて築いてきたアドバンテージをどう守り抜くかに今ごろ知恵を絞っているはずだ。

プロドゥア・アジア。インドネシア第2のメーカープロドゥアで販売される国民車。インドネシアのエコカー政策に合致させるために、ミラ・イースのテクノロジーを生かして開発したモデルだ プロドゥア・アジア。インドネシア第2のメーカープロドゥアで販売される国民車。インドネシアのエコカー政策に合致させるために、ミラ・イースのテクノロジーを生かして開発したモデルだ
インドネシアの国民車プロドゥア・アジアの内装。新興国専用モデルとはいえ、もはや質素なものではない。それでも耐久性や室内空間などの要求は日本国内モデルとは異なるため、新たに別モデルとして設計する必要がある インドネシアの国民車プロドゥア・アジアの内装。新興国専用モデルとはいえ、もはや質素なものではない。それでも耐久性や室内空間などの要求は日本国内モデルとは異なるため、新たに別モデルとして設計する必要がある

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