「共存文化」のダイハツがとるべき世界戦略とは池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/5 ページ)

» 2015年07月21日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 ダイハツの戦略は大きく分けて3つの要素で成り立っている。

 1つ目は国内販売。スズキとの熾烈な、そして終わりなき軽自動車のトップ争いが続いている。2つ目はアジア戦略。マレーシア第2の自動車メーカー、プロドゥア社に出資しており、日本のメーカーの中でASEANに最も大きな足がかりを築いているのだ。世界戦略として見たときには、ASEANでの販売がどこまで拡大できるかが勝負のポイントになるだろう。

 3つ目は親会社であるトヨタとの事業だ。ダイハツ車をOEM(相手先ブランド生産)供給するとともに、トヨタの商用車などの開発生産を受け持っている。そして、これら3つの要素には通底するテーマがある。キーワードは「スモールカー」だ。

ダイハツ・タント。軽自動車の主要車種は車高別に低・中・高の3モデルがある ダイハツ・タント。軽自動車の主要車種は車高別に低・中・高の3モデルがある

 ダイハツの「会社概況データブック」を見ると、その冒頭にグループ理念が書き出されている。「私たちダイハツグループは、時代をリードする革新的な『クルマづくり』への挑戦を通じて、“ 世界の人々に愛されるグローバル・ブランド ”、 “ 自信と誇りを持った企業グループ ” を目指します」。これが主文だ。

 それが具体的には何を指すかは副文に書かれている。

1.世界のお客様の笑顔と感動が私たちの喜びです。

2.お互いの個性尊重と公平が私たちの絆です。

3.地球と社会との共生が私たちの責務です。

4.スピード・ブレークスルー・率先垂範が私たちの基本です。

5.世界一のスモールカーづくりが私たちの挑戦(チャレンジ)です。

 一見ただの理想論だが、注意深く読むとなるほどと思わせる要素が網羅されている。「世界のお客様」からは明確なグローバル志向がうかがえる。主文でも触れられている通り、ダイハツはグローバルブランドを志向している。「互いの個性尊重と公平」からはダイハツの協業志向が見える。それは親会社トヨタに同化しないという意思表示であるとともに、アジアマーケットで提携する現地資本との協業スタンスを支配的なものにしないという宣言ともとれる。

 「地球と社会との共生」は分かりやすい。エコと安全の技術を磨いて行くということだ。「スピード・ブレークスルー・率先垂範」が意味するのは改革意識だろう。「世界一のスモールカーづくり」は解説するまでもない。

 つまりまとめると、他社と理想的共存関係を築きつつ、世界最先端のスモールカー作りに向けて改革し続けていくということになる。

 スズキは多くの提携相手に望まれながらも、さまざまな理由によって添い遂げていない。フォルクスワーゲンとはいまだに裁判で係争中だ。それはスズキの独立志向に根ざすものだと思う。ある意味好対照とも言えるのだが、ダイハツは他者に対して融和的な文化を持っているのだと思う、それはトヨタとの長きに渡る提携関係の維持継続にも表れている。この共存思想はダイハツの1つの特徴と考えていいだろう。

かつて、軽自動車の背高モデルとして新たなマーケットを開いたのが、スズキのワゴンRとダイハツのムーブだ。その後、さらに背の高いタントクラスが現れたことにより、現在ではこのムーブクラスがスタンダードになった かつて、軽自動車の背高モデルとして新たなマーケットを開いたのが、スズキのワゴンRとダイハツのムーブだ。その後、さらに背の高いタントクラスが現れたことにより、現在ではこのムーブクラスがスタンダードになった
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