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» 2015年07月13日 08時00分 UPDATE

池田直渡「週刊モータージャーナル」:「常識が通じない」マツダの世界戦略 (1/5)

「笑顔になれるクルマを作ること」。これがマツダという会社が目指す姿だと従業員は口を揃えて言う。彼らは至って真剣だ。これは一体どういうことなのか……。

[池田直渡,ITmedia]

 マツダの世界戦略について書くのは難しい。そもそも、そういう文脈でマツダの人と話しても、話が噛み合わないのだ。マツダが世界のどこでビジネスを伸ばし、どんな規模の会社になろうとしているのかを問うと「笑顔になれるクルマを作ることなんです」と答えが返ってきた。

 仕方がないので質問を変える。マツダは比較的欧州に強い。それもドイツを中心とした北方だ。南方はどうするのか、東欧圏はどうしたいのか、そのあたりの戦略はどう組み立てるのか――。そう聞いて返ってくるのは「マツダは小さい会社です。2%の人に満足してもらえるクルマを作り続けられるように、理想を追求していきます」。

 煙に巻こうとして言っているわけでないのが表情で分かるから性質が悪い。「マツダという会社がどうやって人の役に立てるかを考えています」なんて青年の主張みたいなことを、不惑もだいぶ過ぎたようなおっさんが熱弁するのだ。

2座スポーツカーを世界戦略モデルの筆頭に据える日本企業はかつてなかった。概念でも現実でもロードスターはマツダの世界戦略のフラッグシップだ 2座スポーツカーを世界戦略モデルの筆頭に据える日本企業はかつてなかった。概念でも現実でもロードスターはマツダの世界戦略のフラッグシップだ

美しい言葉の裏側

 正直なところ書き手泣かせだ。「笑顔になれるクルマ」「2%のファンのための理想追求」「人の役に立つ製品作り」。言葉が美しすぎて上滑りしてしまう。社訓や社是みたいな美談が聞きたくて取材しているのではない。リアルなビジネスの話が知りたいのだ。ところが、これが本当にビジネスの話だからマツダには常識が通用しない。

 頑固なラーメン屋のオヤジの話なら分かる。「笑顔になれるラーメン」「ファンを裏切らない理想のラーメン」。ラーメン屋は「人の役に立つ」とは言わないかもしれないが、喜んでもらうという意味なら人々の生活を豊かにする役に立っているだろう。オヤジの心意気は美しいと思う。しかし、こういう認識で売上高3兆円、純利益1600億円の自動車メーカーとして存在しているということは驚異である。

 結論から言えば、マツダは商業としての目標を持っていない。だからマーケティング的なビジネス戦略を聞いても無駄なのだ。そこに達していないのではなく、かつての失敗でそういう目標の立て方に徹頭徹尾懲りてしまったのだ。

 マツダは1990年代に国内販売100万台を目標に、販売チャネルを5つに増やし、区別がつかないほどの大量の新型車をリリースした結果、倒産の瀬戸際まで追い込まれた。社員の一人一人が「Change or Die」、つまり変革か死かという研ぎ澄まされた刃物を首筋に突きつけられたような言葉で、今までの価値観を捨て去ることを求められた。実際、早期退職も募られた。毎日のように見知った顔が職場から消えていく。経験者にこの話を聞くと、心の底からこりごりしていることが分かる。

 Change or Dieは「知の巨人」とも「マネジメントの父」とも言われた経営学の大家、ピーター・ドラッカーの言葉だ。座右の銘にしている経営者も多いが、これほどまでのリアリティで、全社員がその言葉を真剣に受け止めた例をほかに知らない。

 以来、マツダは販売台数を数字作りで考えない。やるべきことをやった結果が数字になるだけだ。「僕の後ろに道はできる」という高村光太郎みたいな話なのである。

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