「ゴーストライター」のホントのお仕事出版社のトイレで考えた本の話(5/6 ページ)

» 2015年07月09日 08時00分 公開
[堺文平ITmedia]

文芸書の編集者とは「別の職種」

 もう一つ例を挙げよう。みなさんが小学校に通っていたときのことを思い出してもらいたい。同じ学校の同じ学年であれば、使う教科書は基本的に同じ。つまり、伝えるべき知識やノウハウ、考え方のベースは同じだ。でも、それを基にした実際の授業は、先生によって「うまい・ヘタ」が確実にある。教える人・教え方によって、伝わり方はまったく違ってくる。みなさんは、授業のうまい教師・ヘタな教師のどちらに教えてもらいたいだろうか?

 ビジネス書・実用書における「ゴーストライター」も、こうした「説明図の描き手」や「学校の先生」と、立場としては似ている。「ノウハウをつくり、考え方を生み出すこと」と「それを伝えること」は、根本的には別の役割・能力であり、ライターは「伝えること」のプロフェッショナルとして、著者の補助を行っていると考えていいのではないか。

 実際、「うまい」と評価されるライターは、著者の話し方や意見の言い方、説明の仕方といった「キャラクター」や「味」などを的確につかみ、自然な形でテキストに落とし込んでいく。実際、原稿を見た著者から「すごい、ホントに自分が書いたみたいだけど、説明は僕が書くより分かりやすいよ」と驚かれたこともある。著者の特徴を出しながら、上手に説明するというのは、非常に高度な技術だと筆者は思う。

 付け加えると、ライターを起用しない場合でも、ビジネス書・実用書の編集者は、著者の原稿にかなり手を入れることが多い。やはり著者の大半が「伝えること」においてはプロフェッショナルではないためだ。この点では、文芸書の編集者とは「別の職種」と考えてもいいだろう。

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