スズキが“世界自動車戦争”の鍵を握る理由池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/6 ページ)

» 2015年06月29日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 これまで何度か書いてきたが、スズキというメーカーの価値を最も高めているのは性能と低価格を両立しつつ軽自動車を作る技術だ。安く作れることは軽自動車メーカーとして重要なことだが、この10年、スズキはそれに加えて価格上昇を招かずに性能を高める方法を手中にした。

 そのきっかけを尋ねると、スズキのエンジニアは独オペルとの共同開発を挙げる。オペルの実態は欧州GMだ。スズキはかつてGMと提携関係にあり、2000年代に旧東欧圏に販売する商品としてスズキの「スプラッシュ」を「オペル・アギーラ」としてOEM(相手先ブランド生産)することになった。

オペル・アギーラ(出典:Wikipedia) オペル・アギーラ(出典:Wikipedia

 スズキのエンジニアによれば、アギーラの共同開発作業で、さまざまなカルチャーショックを味わったという。それは主に車両開発テストにおける操縦安定性の目標設定にあった。これまでスズキ社内でよしとされてきたラインにオペル側から多くのダメ出しがあったらしい。

 オペルはGMグループだが、拠点はドイツにある。ドイツの設計思想は基本的に大鑑巨砲主義的なところがあり、多くの場面で問題点を解決するためにメカニズムを複雑にする。

 マルチリンク式サスペンションの生まれた国だということも頷ける。前後、左右の位置決めが必要なら2方向の動きにそれぞれ呼応するアームでそれをコントロールする。場合によっては追加された機構がネガを生み出すので、その対策としてさらに新機構を組み込む。そういうエンジニアリングを見ていると、理知的ではあるが、どこか「バベルの塔」を連想させることがあるのだ。

 想像だが、オペルは問題解決のために、メカニズムの複雑化を求めたのだろうと思う。ところが、スズキには揺らがない「どケチマインド」がある。問題点を把握しても、その解決のために複雑な機構を採用してコストが上昇することをスズキはどうしても是とできなかった。

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