続編準備中? 少年A『絶歌』の社会的意義スピン経済の歩き方(3/5 ページ)

» 2015年06月23日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

「犯罪小説家」にこそ自分の生きる道

 著者もやる気マンマンだ。「あとがき」に「本を書けば、皆様をさらに傷つけ苦しめることになってしまう。それをわかっていながら、どうしても、どうしても書かずにいられませんでした」とあるように、彼は遺族側がかねてから切望していた「事件や被害者に対してわき上がってきた思いをその都度送る」という考えはハナからなく、とにかく「本を出す」ということに強い欲求がある。医療少年院時代から小説家志望だったという話もあるし、『週刊ポスト』によると、幻冬舍に企画を持ち込んだ際にも「1冊目はノンフィクションで2冊目は小説」なんて提案をしたともいうから、「犯罪小説家」にこそ自分の生きる道があると考えているふしがある。

 聞き慣れない響きだが、世の中にはそんな風に呼ばれる人もわずかながら存在している。日本でもパリ人肉事件の佐川一政氏が有名だが、米国では犯罪者が作家になるケースが少なくない。刑務所の社会復帰プログラムの一環で創作活動も教えているからだ。

 その代表がエドワード・バンカーだ。自身の経験をもとにした犯罪小説『ストレートタイム』はダスティン・ホフマン主演で映画化された。自身も俳優として活動し、「本物」ならではのはオーラが重宝され、クエンティン・タランティーノが監督・脚本・出演の3役を務めた映画『レザボア・ドックス』では「Mr.ブルー」という役を演じた。

 米国には、今回の騒動で注目された「サムの息子法」(加害者が犯罪行為をもとに手記を出版するなどして収入を得た場合、被害者側の申し立てにより収益を取り上げることができるという法律)なんてのもある一方で、「犯罪者もバンバン表現するのが健全な社会です」みたいな考えもあるので、かつては刑務所の矯正教育に携わる文化人などから、「犯罪者文学賞」設立を求める声もあがった。

 バッカじゃないのと思うかもしれないが、賛同する声もわりとあって判事や作家、連邦刑務所局、アメリカ更生協会などが応援した。犯罪被害者の中からも「創作活動を通じて更生ができるならいいのでは」という一定の理解を示す声も出たのだ。

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