北米で絶好調のスバル、しかし次の一手が難しい池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)

» 2015年06月22日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]
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 こうした背景を見つつ、スバルは今後の計画について慎重な発言をしている。北米については当面の供給不足を改善するため、トヨタの受託生産を行っていた工場を契約期限終了をもってアウトバックの生産に振り向ける手を打ちつつも、抜本的な生産規模の拡大までは言及しない。チャンスではあるが、大型投資をするには時期尚早と考えている様子だ。「足りないくらいがちょうどいい」というスバルの発言からその意図が見える。中国に関してはさらに慎重だ。むしろスタンバイをしつつ、ギリギリまで状況を見るつもりだろう。

 スバルが長期的に規模の拡大を目指すとすれば、何をやらなければならないかは明白だ。新興国向けBセグメントの小型車を開発することだ。それは当然水平対向でもなければ、AWDでもない。普通の安い小さなクルマである。

 しかし、それにも問題が多々ある。1つはブランニューシャシーとエンジンを開発して、その開発費を回収できるのかという問題だ。現状を冷静にとらえればそこまでの飛躍はバクチがすぎる。新興国用のBセグメントモデルは日本国内で売るには訴求力が足りない。かといって国内向けの高付加価値モデルをこれ以上追加することは、グローバルに見たときには意味がない。

 さらに筆頭株主のトヨタが自社製品と競合する製品開発を黙って許すかという問題もある。可能性があるとすれば、同じくトヨタグループのダイハツがトヨタのために「パッソ(ダイハツ版はブーン)」を開発生産しているように、トヨタの「アイゴ」か「ヴィッツ」の次期モデルの開発生産を受託して、自社ブランドでも販売するということになるだろうが、トヨタは「Toyota New Global Architecture(TNGA)」によるモジュール化を打ち出したばかりである。モジュールの枠をはみ出してまでスバルにその設計生産を任せるとは考えにくい。これらの車種は世界各地の工場で生産しており、各拠点のシナジー効果や品質管理を統括していくためにもトヨタが直接コントロールをしないと難しい。かといってスバルの水平対向エンジンを含むエンジニアリング要素をモジュールに取り入れるほど大掛かりな投資をすぐに行うとも思えない。

 以上の点から見ると、スバルの100万台越えはあるかもしれないが、大前提として北米マーケットがこのまま順調に拡大するか、中国マーケットがスバルの都合のいい方向に成長した場合に限られるだろう。体力以上の長期成長を狙いすぎると命取りの可能性がある。

 となれば、スバルは中堅メーカーとして、水平対向エンジンとAWDとアイサイトを軸に据えて独自路線を進む以外に方法がない。それはファンと共存するというマツダの戦略に近いものだが、マツダはロータリーという個性的すぎる技術への依存度を下げ、より一般的なディーゼルに看板技術のシフトを済ませている。スバルが水平対向に代わるより普遍性の高い看板技術を取り入れないと、超長期的には厳しい展開がくるかもしれない。

スバルが「シンメトリカルAWD」と呼ぶこのシステムは、エンジンから駆動系までが左右対称な四輪駆動 スバルが「シンメトリカルAWD」と呼ぶこのシステムは、エンジンから駆動系までが左右対称な四輪駆動

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。

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