同じような本が何冊も出てくるワケ新連載・出版社のトイレで考えた本の話(5/5 ページ)

» 2015年06月18日 08時00分 公開
[堺文平ITmedia]
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「テレビの現状」と根っこは同じ?

 このように、特定テーマやベストセラー著者にみんなが殺到し、消費し尽くして、すぐ飽きられる、という構造が繰り返されながら、紙の本の市場は確実に縮んでいる。

 本が売れなくなってきている中で、他社も含めた売上データを丁寧に見て、活用するのは当たり前の話だ。まともにデータ分析もできない出版社がこの先、生き残れる確率はゼロに等しい。しかし「データの供給元」自体が別に多くはない中で、データ重視の傾向が強まれば強まるほど、同じデータを見て同じような本をつくる人間は増える。こうして過剰にデータを重視するあまり、書店の棚まで「コンビニ化」してしまうのは問題だろうと思う。

 これは実は「テレビがつまらない」と言われるのと同根の問題かもしれない。

 ご存じのように、現在はテレビの制作側で、視聴率データをかなり細かく取ることができる。「特定のタレントが出た回」「番組内のこのコーナー」は言うまでもなく、「この芸人が料理を食べたとき」「この家のペットが映ったとき」などまで分かる。結果、視聴率を取れる要素を隅々まで詰め込んだ、同じような形式、同じような出演者の、同じような番組ができる。でも、チャンネルを回してみると、他局でも同じような番組をやっているので、視聴者も見慣れてしまい、必要以上に早く飽きられてしまうのだ。

 こうした害を避けるには、できるだけ他のソース・他の分野からデータを引っ張ってくる努力も必要だ。しかし、結局のところ、出版社が意識的に「チャレンジする作品」をつくる以外にない。例えば筆者は、企画の評価者側の立場のときは「自分には分からないけど、この分野で、この編集者が面白いと言うんだから、売れる確率はあるのでは」という企画を10本に1、2本は通していた(10本全部を通せば、当然、会社は潰れる)。

 幸い、本の出版は、制作の面では、テレビ番組と比べても安価に1つのコンテンツをつくることができる。それだけに、意識的に「遊び」や「データ以外の判断基準」もつくっておいたほうが、長い目で見た場合には、よい結果をもたらすのではないだろうか。

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