ベルリンの壁崩壊から26年 自動車メーカーの世界戦略はどう変わった?池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2015年06月08日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

期待外れだった400万台クラブが生んだもの

 こうして400万台クラブというコンセプトは世界の自動車メーカーの勢力図を大幅に書き換えた。しかし、意外なことに、これだけの大変革を行って得られるはずの利益が思ったより振るわなかった。

 膨大な生産数量を背景にすることで実現するはずだった、部品調達コストの交渉力向上や、開発コストの台数あたり引き当ての低減が、利益に与える影響としては限定的だったのである。

 つまり「同じような部品を購入して、同じようなクルマをさらに大量に作れば儲かる」という単純な数の原理は見込みより効果が薄かったことになる。むしろそれぞれに国籍が異なる企業文化のぶつかり合いによる非効率化がクローズアップされていく。その結果、わずか数年で400万台クラブは崩壊していくのだ。ダイムラーとクライスラーは合併を解消し、フォードは、マツダ、ジャガー、ランドローバーを手放すことになる。

 しかし、ここで結果オーライと思われる面白い現象が起きる。400万台クラブの最盛期、多くのブランドがそのターゲットに収められ、熾烈な争奪戦が行われた。最も話題になったのはロールス・ロイスである。結果は事実上一体であったロールス・ロイスとベントレーをそれぞれBMWとフォルクスワーゲンが所有することになる。

 しかし、これは本来の意味からするとおかしな話だ。400万台を目指した合従連衡である以上、生産台数の限られた超プレミアムブランドを傘下に加えてもアドオンできる台数は無きに等しい。恐らくはそのブランドイメージを欲しての話だと思うが、ブランドイメージの活用法が描けていない以上、経済的整合性があるようには見えなかった。

 ロールス・ロイス、ベントレー、アストンマーティン、ランボルギーニ、ブガッティなどのプレミアムブランドは数の足しにならない。かと言って本体に同化させてしまってはブランドを取得した意味がなくなる。つまり、プレミアムブランドはプレミアムブランドであることに価値を見出す以外に使い道が無いのだ。

 ここで注目すべきはフォルクスワーゲンだ。フォルクスワーゲンは本来その名が示す通り大衆車ブランドであるが、旧東側で売るには値段が高い。そこで旧東側ではディフュージョンブランドとして「シュコダ」を大衆に向け、また同じマーケットでスポーツ寄りには「セアト」を当てる。加えて「アウディ」を先進国向けのプレミアムブランドとして位置付ける戦略をとった。

フォルクスワーゲンブランドの中核に座る「ゴルフ」。多くのブランドでゴルフの兄弟車を展開し、利益を上げる方法を確立した フォルクスワーゲンブランドの中核に座る「ゴルフ」。多くのブランドでゴルフの兄弟車を展開し、利益を上げる方法を確立した

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.