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» 2015年06月05日 08時00分 UPDATE

杉山淳一の「週刊鉄道経済」:なぜ大井川鐵道の経営再建に北海道のホテル会社が? (1/4)

トーマスは大人気だけど経営事情は厳しい。そんな大井川鐵道の事業再生支援が決まった。筆頭株主で取締役4人を送り込んでいた名鉄は撤退し、北海道のホテル再建を手掛けた企業がスポンサーとなる。一体なぜか。そこには名鉄の良心があるようだ。

[杉山淳一,ITmedia]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP


 5月29日、静岡県の大井川鐵道と子会社の大鉄商事に対して、地域経済活性化支援機構が再生支援すると発表した。両社はスポンサーとなるエクリプス日高に対して3億円の新株式を発行する。エクリプス日高は議決権の90パーセント以上を獲得する。エクリプス日高は北海道・新ひだか町で、静内エクリプスホテルを経営する会社だ。

 このニュースに驚かれた人は多いだろう。大井川鐵道の広報担当者も知らなかったという。会社の上層部で極秘裏に進められた計画だったようだ。社長の伊藤秀生氏は名古屋鉄道(名鉄)出身で、2014年6月にはさらに名鉄出身の取締役を迎えたばかり。その新取締役は別の路線の廃線問題で地元自治体と連携した実績があった。これで大井川鐵道の名鉄からの取締役は4人となり、支配を強めたかに見えた。しかし結論は撤退だった。

大井川鐵道の象徴的な列車のすれ違い。観光向けにSL、普通列車向けに近鉄や南海の古い特急形車両が走る 大井川鐵道の象徴的な列車のすれ違い。観光向けにSL、普通列車向けに近鉄や南海の古い特急形車両が走る

 大井川鐵道は静岡県榛原郡吉田村(現:吉田町)の資産家で貴族院議員の中村圓一郎氏を中心とする発起人グループによって設立された。構想時は山林資源の開発を目的とし、設立時の主目的は大井川の水利開発だ。株主の多くは沿線の人々だったが、出資比率としては東京の電力系資本が多かった。その後、1970年代に名鉄の経営支援を受け、現在の筆頭株主は名鉄となっている。しかし今回の再生支援決定によって、名鉄は大井川鐵道の経営から手を引く形になった。

 今後は地域経済活性化支援機構が、主要取引銀行以外の金融機関に対して機構に債権を売却するか、事業再生計画に同意して、債権の一部を放棄しつつ、残りの債権を保有するか、などの選択を求めるという(参考リンク)。債権者の同意を得た後は機構が大井川鐵道に出資や融資を実行できる。また、機構は事業再生計画の進ちょくを観察し、新規資金の融資の保証も行える。再生支援決定時から5年以内の再生支援完了を目指すという。

 大井川鐵道は、2014年から運行している「きかんしゃトーマス」が人気となり、業績を改善している。しかし、観光集客に力を入れる一方で、地元の人々向けの普通列車は大幅に減便した。「日中で3時間も列車が来ない」「通学時間帯の列車がなくなり、自治体が送迎バスを調達」という事態になっている。2両編成で運行している車両の置き変え用として、廃止された十和田観光電鉄の電車を購入した。決め手は1両単体で動かせるから。しかもロングシートだから座席数が減る。サービス低下策ともいえる。

 島田市はSL観光の集客のために、9000万円を投じて新金谷駅構内に転車台を作り、市を挙げてSL祭りを企画実行している。しかし大井川鐵道と地元自治体の関係は冷え込みつつあった(関連記事)。大井川鐵道は2014年に島田市に対して支援を要請していたけれど、具体的な支援策の報道はなかったようだ。

島田市が9000万円かけて設置した新金谷駅の転車台。もとから千頭駅にあった転車台と組み合わせて、常に蒸気機関車を前向きで運行できるようになった 島田市が9000万円かけて設置した新金谷駅の転車台。もとから千頭駅にあった転車台と組み合わせて、常に蒸気機関車を前向きで運行できるようになった
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