狙いは何? トヨタとマツダ、“格差婚”の理由池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2015年06月01日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

ガソリンとディーゼルが手薄なトヨタ

 自動車メーカー各社の間で「ガソリンエンジンには未来はない」と思われていた時期が短いながらあった。ハイブリッドをつなぎに燃料電池へシフトするだろうという予測が支配的だった時代だ。「ガソリンエンジンの開発はもう縮小していきます」。当時はそう語るエンジニアもいた。

 しかし、予想に反して燃料電池の開発は難航した。ベンツが床下に燃料電池を納めるスペースを設けて意気揚々とAクラスのプロトタイプをモーターショーに出したのが1990年。Aクラスの市販化が1997年、2005年にシャシーの基本を引き継ぎつつ電池スペースを残してモデルチェンジをしたが、結局一度も燃料電池は搭載されないまま、2013年のフルモデルチェンジの際に床下スペースが廃止された。こうしてベンツは、25年間におよぶ燃料電池の夢に終止符を打った。

 現在の燃料電池を巡る状況を考えると、1990年代に燃料電池が生産車投入カウントダウン状態だと分析された理由が分からない。トヨタの燃料電池車「MIRAI」でさえ(参考記事)、まだまだ楽観した状況ではないのだ。

 この頃の未来予測が、自動車メーカー各社のコンベンショナルなエンジン開発を停滞させたのは間違いない。こういう技術トレンドの大きな変化にはトヨタのような大メーカーほど迅速に追随しやすい。新しい動力機構に研究開発費を投入できる体力があるからだ。そんなわけでトヨタはハイブリッドを含む新しい動力源に注力した結果、ガソリンやディーゼルなど従来型のエンジンが一時的に手薄になり、いまそのツケが回ってきている。

SKYACTIVエンジンが生まれた理由

マツダの1.5リッターディーゼルユニット「SKYACTIV-D」。圧縮比を落とすというユニークな設計により、軽量化を達成した

 最初からそんな予算のないマツダは、既存技術を必死に磨くことになった。その結果がディーゼルエンジンのSKYACTIV-D(参考記事)と、ガソリンエンジンのSKYACTIV-G(参考記事)という形で結実したのである。別にマツダに先見の明があったというわけではなく、それしか選択肢がなかったのでそこに注力し、敵失によって気がついたら良いところにつけていた、というのが本当のところだ。「禍福はあざなえる縄のごとし」を地で行く話である。誤解のないように書いておくが、決してマツダがボーッとしていて棚からぼた餅が落ちてきたわけでない。できることに選択と集中をして、必死にやった結果である。

 これはトランスミッションでも同様で、マツダはどうもCVT(Continuously Variable Transmission、無段変速機)が嫌いで、トルコンステップATへと早期に回帰した。CVTに未来がないかどうかまでは分からないが、2015年時点でのアドバンテージは新たに多段化されたトルコンステップATにあるし、次世代を巡る争いはマニュアルミッションを油圧制御で動かすロボット制御のAMT(Automated Manual Transmission)に期待がかけられている。

 CVTが遅れを取っている最大の理由は、ギア比の最小と最大の比率(レシオカバレッジ)を大きく取れないからだ。最も低いギヤ(ローギヤ)は、エンジンの特性と車体の重さでほぼ決まってしまう。だからレシオカバレッジが小さいと必然的にトップギヤのエンジン回転が上がり、巡航時にエンジン回転を低くするのが苦しい。副変速機を追加してレシオカバレッジを改善しつつあるものの、数値的にはまだトルコンステップATに水をあけられている。

 だから端的に言って、トヨタは今すぐにマツダのエンジンとトランスミッション(マツダはAMTは持っていない)が欲しい。販売力に自信のあるトヨタは、時間とお金がかかる自社開発にこだわらなくても、マツダからエンジンとミッションを買って、あるいはクルマそのものをOEM供給させてガンガン売れば利益を出せる。

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