“あたらない”カキは作れるのか? オイスターバー最大手の挑戦上場で研究開発を加速(2/3 ページ)

» 2015年05月27日 08時00分 公開
[伏見学ITmedia]

年間売上高が7割もダウン

 ヒューマンウェブは2000年4月に設立。それ以前、吉田社長は音楽レーベル大手のエイベックスグループに勤務し、独立直前にはディスコクラブ「ヴェルファーレ」を運営するヴェルファーレ・エンタテイメントで社長を務めていたというユニークな経歴を持つ。ここでの経験が会社立ち上げの後押しになったという。

 「エイベックスは当時日本では誰もやっていないダンスミュージックという分野を開拓した。私もそれにならい、日本ではニッチだったオイスターバーにビジネスチャンスを感じた」と吉田社長は創業理由を説明する。また、吉田社長が岩手県の出身で、カキという食材に馴染みがあったことも大きかった。

ヒューマンウェブの吉田秀則社長 ヒューマンウェブの吉田秀則社長

 2001年9月に1号店を赤坂に出店し、2005年末には7店舗に拡大。ここで一気に事業成長を図ろうと、2006年には6店舗を新規出店したまさにその直後、同年暮れから2007年頭にかけて、下痢や吐き気などの急性胃腸炎を引き起こすノロウイルスが日本で大流行した。ウイルス感染の主な原因がカキなど貝類の摂食ということもあって、店から一気に客足が遠のいた。その結果、売上高は前年比で7割ダウンという危機的な状況に陥ったのである。

 「再び顧客を呼び戻すにはどうすればいいのか……」。ここで吉田社長は決断を下す。“あたらない”安心、安全なカキを作ることにしたのだ。そこで、これまで産地任せにしていた商品の安全管理を自社で取り組もうと、2007年9月にカキの浄化施設「日本かきセンター」を広島県呉市に設立した。「設備投資を含め膨大なコストがかかったが、そのときにこれをしなければ確実に会社はつぶれていた」と吉田社長は振り返る。

 一般的に、カキにあたる原因は、河川からの排水などに混じった菌やウイルスをカキが体内に吸い込み、それが溜まったままのカキを人間が食べることによってお腹を壊すというメカニズムである。菌をカキの体内から抜くためには浄化作業などが必要となるが、今まで同社ではそうした安全管理をすべて産地に任せ、そのカキを産地から店舗に直送していた。

 そこで、全国約50カ所の産地から一度かきセンターに送り、カキを浄化してから各店舗に届けるという仕組みに変えたのである。「これによって商品の安全性が格段に上がった。また、こうした取り組みをアピールし、実際に食べてもらうことで信頼を得、徐々に客足が戻った」と吉田社長は話す。その結果、業績のV字回復にもつながったのである。

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