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» 2015年05月16日 09時00分 UPDATE

宇宙ビジネスの新潮流:米宇宙ビジネスの隆盛を支えるメディアや財団

日本では宇宙ビジネスの関連情報を体系的に得るのは難しいが、この分野で先進的な米国では、専門メディアや財団主催のカンファレンスなど、イノベーションを生むためのプラットフォームが多数存在しているのだ。

[石田真康(A.T. カーニー),ITmedia]

 今回は、米国宇宙ビジネス全体を横断的に加速させようとしているメディアや財団の取り組みに焦点を当てる。

宇宙ビジネスの情報提供者たち

 日本における宇宙関連情報というと、「はやぶさ」などの宇宙科学・開発や日食、月食などの宇宙イベント関連のニュースが多い。他方で、宇宙ビジネスの関連情報を体系立てて取得するのは容易ではなく、一般的に馴染みは薄い。新規プレイヤーによる市場参入や投資を促進する際の障壁とも言える。かたや米国では、宇宙分野のプロフェッショナルメディアが複数存在しており、ビジネス情報の流通が桁違いに多いのだ。

 最大手は1989年に創業した米SpaceNewsだ。同社はビジネスユーザー向けの週刊誌を出版しており、約4万5000人の読者を抱える。加えてWebメディアも運営しており、こちらは年間500万ページビューで、約40%は米国外からのアクセスだ。同社は2012年にメディア分野に投資しているベンチャーキャピタルの米PocketVenturesに買収されたが、その際にも「SpaceNewsは宇宙分野の紙媒体を取扱うメディアとしてグローバルリーダーである」と評されている。

 米NewSpace Globalも特徴的な企業だ。同社は元々プライベートエクイティで働いていたディック・デービット氏とIT業界で働いていたロニー・イスラエリ氏が2011年に創業した若い企業である。自らを“Comprehensive source of new space industry”とうたうように、最先端の宇宙分野にフォーカスした企業情報提供サービスを行っている。多数のアナリストやプロフェッショナルを抱え、1000に及ぶ非公開および公開の宇宙ビジネス企業をカバーしている。各企業を“Management”、“Market”、“Capitalization”、“Technology”の断面から詳細分析を行い、さらに企業間のランキング付けも行っている。

宇宙ビジネス関係者が一堂に集まる年次カンファレンス

 こうした体系的な情報流通に加えて、米国では宇宙ビジネス分野に特化したビジネスカンファレンスも頻繁に開催されている。最も有名なのは米Space Frontier Foundationが年次主催する「NewSpace Conference」だ。毎年7月にシリコンバレーで開催される本カンファレンスは、ベンチャー企業、伝統的企業、政府系機関、さらにはシリコンバレーの投資家が一堂に介する唯一の場として知られる。

 2014年のスピーカーやパネリストを見ても、米SpaceXをはじめ、米Moon Express、米Deep Space Industries、米Planet Labs、米XCOR Aerospaceなど有力ベンチャー企業のマネジメントクラスが参加している。政府系機関からはNASAやFAA(連邦航空局)のシニアメンバーが、ベンチャーキャピタルでは米DFJ Ventures、エンジェル投資家と起業家のブリッジをする米Space Angel Networkなども参加する。

 日本からの参加者は少ないが、昨年参加したispace代表取締役の袴田武史氏は「NewSpace Industryの熱気に圧倒された。この業界のキーパーソンや各社の経営者層がパネリストや参加者として多数おり、しかもすぐ話し掛けることができる素晴らしいネットワーキングの機会がある。2014年は宇宙関連の起業に特化した『Startup Weekend』が同時開催されており、NewSpaceでの起業が選択肢になっていることを強く感じた」と魅力を語る。

「NewSpace 2014」の講演の様子(出典:YouTube) 「NewSpace 2014」の講演の様子(出典:YouTube

賞金レースというイノベーションエンジン

 賞金レースも米国で宇宙ビジネスが注目を集める要因になっている。以前紹介した米X Prize Foundationは、自らを“A facilitator of exponential change”とうたっており、高い目標設定の高額賞金レースを主催することで、未開拓分野における技術、顧客、投資の生態系形成に取り組んでいる。着想の原点は賞金レースで優勝した1927年のチャールズ・リンドバークによる大西洋単独無着陸横断とその後の航空産業の興隆にあるという。

 宇宙分野では、有人弾道宇宙飛行を対象としたコンテスト「Ansari XPrize」を開催し、2004年には有人宇宙船「SpaceShipOne」が優勝した。その後、SpaceShipOneから技術提供を受けた、リチャード・ブランソン氏が米Virgin Galacticを設立、現在までに宇宙旅行事業の立ち上げと予約を進めるなど、新産業創出のきっかけとなった好例といえるだろう。

 現在は、2016年までの月面無人探査を競う「Google Lunar XPRIZE」が開催されており、世界中から18チームが参加している(関連記事)。アジアから参加するあるチームのリーダーは「XPRIZEに参加していることで、潜在投資家や潜在顧客のアテンションを引くことができ、次のビジネスの発展へとつなげることができる」と筆者に語っていた。XPRIZEというのが1つのブランドとなり、ベンチャー企業や投資家の宇宙ビジネス参入が加速しているのだ。

 このように、メディアや財団などの横断的な取り組みもきかっけとなり、ヒト・モノ・カネが集まる民間宇宙ビジネスの興隆と産業としての発展が起きているのである。

著者プロフィール

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石田 真康(MASAYASU ISHIDA)

A.T. カーニー株式会社 プリンシパル

ハイテク・IT業界、自動車業界などを中心に、10年超のコンサルティング経験。東京大学工学部卒。内閣府 宇宙政策委員会 宇宙民生利用部会 委員。日本発の民間月面無人探査を目指すチーム「HAKUTO(ハクト)」のプロボノメンバー。主要メディアへの執筆のほか、講演・セミナー多数。

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