このようにさまざまなギャップが生じる背景には、開発者側が「介護現場の問題解決」よりも、「新しい技術を認知させるための商品化」を目的にロボットを開発している側面が強いからだ。あくまでロボットを普及させる手段として介護現場を選んでいるという開発者が多い。
経済産業省によれば今後のロボット市場は、製造分野ではなくサービス分野が中心となるという。10年後の国内ロボット市場全体は現在の約1.6兆円から約5.3兆円に成長し、介護、福祉などのサービスロボット市場は現在の3733億円から2兆6462億円に急成長すると予測されている。
こうした点からも、開発者側は商品化を目的に「技術先行」の開発を進めてしまい、現場のニーズとはかけ離れた製品になっているという。
「開発者の多くは介護現場の全体を見ていない。業務の一部分だけを見てロボットを作っている。提案としては、開発する側が実際に介護の現場で働いてみて、スタッフが一日どんな動きをするのか、よく観察した上で開発するべきだ」(関口氏)
かながわ福祉サービス振興会では、介護現場のスタッフや経営者にヒアリングを行い、介護ロボットの評価、現場のニーズなどさまざまな意見をまとめ、開発者側にフィードバックしている。また、介護現場の問題解決のためにロボット開発メーカーと福祉関係者のメンバーで構成される研究会を設置し、運営してきた。
作る側と使う側のギャップは想像以上に大きく、介護ロボットが介護現場に普及していく道のりは険しい。さまざまな業界で機械化が急速に進む中、介護業界はどの業界よりも遅くなるのかもしれない。
関口氏は、「介護すべてを全自動でロボットに任せられることはない。基本的には人がやり、ロボットが補助としてかかわる形になるだろう。今後、日常生活の場にロボットは確実に普及していくだろうから、まずは介護施設よりも在宅介護の場面で介護ロボットが活用されるようになるのではないか」と述べる。
今後、多くの仕事はロボットに置き換わると言われている。しかし、今の介護ロボットのように高性能な技術があっても意味をなさない状況も見られる。どこまでが人がやるべき仕事で、どこまでをロボットに任せるべきなのか。開発者は現場スタッフと同じ目線で考え、ともに議論する必要がある。技術先行の開発ではなく問題解決のための開発が求められているのだ。
【変更履歴】記事初出時の内容に一部誤りがありました。訂正してお詫び致します。(5/15 14:55)
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