大人っぽい、落ち着いた印象を与えるムスク系の香りを感知する仕組みとは?人気のある香り

» 2015年05月04日 08時44分 公開
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 魚、鰻、肉などを焼いているときの香ばしい香りは、私たちの食欲を強烈にかきたてる一方で、臭い匂(にお)いは不快感を与えます。香りは、好感や嫌悪感だけでなく、安心感や信頼感などの感情にも影響を与えているそうです。私たちは結構香りに影響されていますよね。

 自然界には数十万種類もの匂い物質が存在しているといわれています。このうち、私たちは数千種類、熟練した調香師になると一万種類もの匂い物質を嗅ぎわけることができるようです。

 では、私たちは、これらの匂い物質をどのように嗅ぎわけているのでしょうか? 匂い成分を感知できる嗅覚受容体タンパク質が情報をキャッチし、その情報を脳に伝えています。私たちは約400個の嗅覚受容体タンパク質遺伝子をもっているといわれています。マウスにいたっては、約1000個の遺伝子をもっていることが知られています。色の感知に関わる遺伝子が3個ということを考えると、匂いの感知には非常に多くの遺伝子が関わっていることが分かります。

 これまでの研究から、嗅覚受容体タンパク質と匂い物質は複数対複数の組み合わせで認識されていることが分かってきました。私たちは嗅覚受容体の組み合わせをうまく使いわけて、遺伝子の数以上の匂い物質を嗅ぎわけることができるようになったのです。

香水や洗剤に使われるムスク系の匂い物質

 大人っぽい、知的な印象を与えるムスク系の香り。人気のある香りの一つで、多種多様なムスク系香料が工業的に合成され、香水や洗剤に利用されています。ムスク系の主要な香り成分の一つのムスコンという匂い物質は、雄のジャコウジカが雌を呼び寄せるシグナルとして使われているそうです。ムスコンの香りを嗅いだ人の性ホルモンの量が変化したという報告もあるそうです。大人っぽい、官能的な香りというのは、匂った時の単なるイメージだけでなく、ムスコンの香りによって影響を受けた結果を示しているのかもしれませんね。

 東京大学大学院の東原和成教授らの研究グループは、ムスコンを選択的に認識する嗅覚センサーを、マウスとヒトで初めて発見したと報告しています。マウスを使った実験で、約1000個の嗅覚センサーのうち、たった数個という非常に限られた数のセンサーでムスコンを感知していることが明らかにされました。また、ムスコンの香りによりマウスの脳の極一部のみが活性化されていて、この部分が傷ついてしまうとムスコンの香りを感知できなくなることを明らかにしました。将来的には、香りによる心理的・行動的変化が科学的に説明される日がやってくるかもしれません。

 ところで、匂いを嗅ぎ取る能力は、そもそも鼻が詰まっているなどの物理的な問題に加え、遺伝要因や訓練によっても個人差が出てくるようです。遺伝要因でいうと、例えばムスコンの匂いは約6%のヒトが嗅ぎ取ることができないそうです。一方で、人間は、訓練することによって、匂いに対する感度を高めることができるようです。「そういえば、あの香りを嗅ぎとれない」という人は、他の人と違う遺伝子型のセンサー遺伝子をもっているのかもしれませんね。

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