だからリニアも? 名古屋都市圏は新しい乗りものがお好き杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)

» 2015年05月01日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP


 前回、JR東海が東海道新幹線の高速化へ努力を続けてきた経緯を紹介した。そして末尾にJR東日本の新幹線高速化計画も紹介した。現状の新幹線で時速400キロメートルを出せるなら、中央新幹線を磁気浮上式リニアモーターカーにしなくても良いのではないか、と疑問を持った人もいるだろう。

 しかし、JR東海は東海道新幹線だけではなく、磁気浮上式リニアの高速化にもチャレンジしているのだ。2015年4月21日、山梨リニア実験線で、営業運転仕様の車両「L0系」が時速603キロメートルの有人走行に成功した。これは営業運転を目指した試みではない。予定通りの時速505キロメートルで運転した場合の安定性や安全性を確実にするために、あえて限界に挑むという意味合いがあったらしい。

 着々と東海道新幹線の速度アップを実施してきたJR東海のことだから、速度アップの野望もあるだろう。ちなみに最高時速505キロメートルで走った場合の東京(品川)〜名古屋間の所要時間は40分。最高時速603キロメートルで走ると、概算で5分程度の短縮になりそうだ。東京〜名古屋間の距離では、時速100キロメートルのスピードアップのメリットは小さい。ただし、将来の大阪延伸を考えると、東京〜大阪間で10分程度の短縮が見込めそうだ。これは大きい。

列車速度が上がるとどんなメリットが?

所要時間60分で折り返すダイヤ。青が下り始発列車、赤が上り始発列車。7時10分発から折り返し列車になる 所要時間60分で折り返すダイヤ。青が下り始発列車、赤が上り始発列車。7時10分発から折り返し列車になる

 列車のスピードが上がるメリットは、乗客にとっては所要時間の短縮である。しかし、鉄道会社のメリットは設備投資の軽減である。列車が速く走ると、路線全体で必要な車両の数を減らせる。例えば、所要時間60分の列車が、所要時間50分に短縮するとどうなるか。列車ダイヤ風のグラフに示してみよう。

所要時間50分で折り返すダイヤ。青が下り始発列車、赤が上り始発列車。7時発から折り返し列車になる 所要時間50分で折り返すダイヤ。青が下り始発列車、赤が上り始発列車。7時発から折り返し列車になる

 A駅とB駅を所要時間60分で結ぶ路線があり、運行間隔は10分。A駅、B駅とも折り返し時間は10分とする。この路線で始発を6時とすると、7時ちょうどまでは出庫、7時10分発から折り返し列車となる。A駅、B駅それぞれ7本、合わせて14本の列車が必要だ。

 同じ路線で列車の所要時間を50分とし、そのほかの条件は同じとする。折り返し列車の到着が10分繰り上がり、その分、出庫する列車を減らせる。A駅、B駅それぞれ6本、合わせて12本の列車が必要で、所要時間60分に比べて2本減らせる。スピードアップは車両数の節約につながる。

リニア中央新幹線の費用と需要(出典:JR東海報道資料) リニア中央新幹線の費用と需要(出典:JR東海報道資料)

 JR東海は中央新幹線の建設計画にあたり、鉄輪式新幹線と磁気浮上式リニアの比較データを公表している。東京〜名古屋間において、磁気浮上式は鉄輪式に比べて建設費は1兆円ほど高く、年間の維持費、設備更新費用を合わせると800億円ほど高い。しかし磁気浮上式の所要時間は鉄輪式の半分で、需要予測は倍になる。

 つまり、磁気浮上式の投資額は大きくなるけれど、利益はもっと大きい。これらの傾向は将来の大阪延伸ではさらに大きな差になる。だからリニアのほうが得だ。これはいかにも民間企業らしい強気の考え方だ。国が建設するとなると「血税で作るのだから」という考えが先に立ち、予算控えめ、時速260キロメートルの新幹線のような、今となっては半端な代物になってしまう。

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