土肥: 船越さんはこれまで1万7000時間以上を飛んできた、いわゆる“ベテランパイロット”なのですが、危険なシーンに遭遇されたことはありますか?
船越: ないですね。危険なシーンではないのですが、気流などの影響で、飛行機が不安定なときには着陸を止めるときがあります。ゴーアラウンド(着陸をやり直すために再び上昇すること)をすれば時間がかかってしまうのですが、それでも着陸後には「自分の選択は間違っていなかった。ゴーアラウンドしてよかった」と思っています。
土肥: どういう意味でしょうか?
船越: 副操縦士として乗っているときに、気流が悪いときがありました。そのときの機長は必至になって着陸しようとしていたので、横で見ていた私は「このまま降りるんだろうなあ」と思っていました。しかし、それまでなにがなんでも着陸……といった感じだった機長が、いきなりゴーアラウンドしたんですよ。その切り返しの早いことにびっくりしました。と同時に「やっぱり機長は違うなあ。見習うべきだ」と思いました。
土肥: 着陸できるかどうかの基準がありますよね。風速○○メートル以上はダメといった感じで。
船越: もちろんあります。ただ、パイロットを長く経験していると「このまま降りてもいいことはないなあ」と感じることがあるんですよ。そう感じたら、仕切り直しをしたほうがいい。
気流が悪い中で降りれば、ハードランディングになってしまうかもしれません。しかし、ゴーアラウンドすれば、気流の悪さを一度経験しているので、次に降りるときにはそれに対応することができるんですよ。
ゴーアラウンドすれば、到着時間が遅れてしまう。そのことによってお客さまにはご迷惑をかけしてしまうのですが、それよりも「安全」に降りたほうがいい。「降りないほうがいいかな」と思ったときには、心の準備を整える意味でも、仕切り直しをする。そうした決断をするときに「時間」を気にしてはいけません。
(終わり)
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