200万円超えモデルも――なぜ”高額な軽自動車”が増えるのか池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)

» 2015年03月20日 09時10分 公開
[池田直渡Business Media 誠]

軽自動車の維持費はなぜ安くなったのか

 どうせダウンサイジングするなら、維持コストが一気に下がる軽自動車に魅力を感じるのは当然である。税制面で軽自動車は圧倒的に有利だ。現在の軽自動車税は年間7200円。排気量1リットル以下の普通車の税金が2万9500円であることと比較すれば極めて割安だと分かる。

 軽自動車税だけではない。制度が同じではないので単純比較はしにくいが、保険も車検も安い上、多くの高速道路には「軽自動車料金」が設定されている。定期的に高速道路を使って出かけるというケースでは、かなりの差額になるだろう。こうしたメリットを考えると、軽自動車にしては多少車両価格が高くても、普通車との年間の維持費の差を考えればペイできる。そのくらい維持費の差は大きい。

 日本の場合、自動車がぜいたく品であった時代の名残りが税制に色濃く残っており、世界的に見ても自動車の維持費における税金の絶対額が突出して多いと言われる。しかも自動車税と重量税や、ガソリン税と消費税など二重課税の問題も多く、非合理的な側面が多い。

 特に問題をややこしくしたのが、若き日の田中角栄が作った「道路特定財源」だ。これは1950年代に、戦後復興で出遅れた道路整備を進めるために、当時特殊な富裕層であった自家用車ユーザーに受益者負担を求めるためにできた制度だ。

 しかしその後のモータリゼーションの発達で、おのずと意味合いが変わっていく。自動車が限られた富裕層のぜいたく品ではなくなっていくのに反して、税収は大きくふくれ上がり、特に地方の公共工事財源として手放せなくなっていく。

 その結果、時限でスタートしたはずのこの道路特定財源は期間の延長を繰り返し、ついに2009年には一般財源化されてしまった。国も地方自治体も税収が不足している中で、いまさら財源を手放せない。

80〜90年代の軽自動車たち。左上から時計回りにスズキ・アルト(1984)、スズキ・アルト・ワークス(1984)、スズキ・カプチーノ(1991)、ホンダ・トゥデイ シーズン(1990)。初代アルトは1979年に登場し「47万円」という驚異的な低価格で話題になった。アルト・ワークスは後述する「スズキ・アルト・ターボRS」の先祖に当たるモデル

4月、軽自動車税が引き上げ――軽自動車(の新車)は売れなくなる?

 2015年4月販売の新車からは、軽自動車税が従来の7200円から1万800円へ引き上げられる。「4月販売の新車から」とは、「それ以前に売られたクルマは今後も従来通り7200円でOK」という意味だ。つまり現在市場に出回っている中古車や、3月中に納車されたクルマは今回は引き上げの対象にならず、来年以降も毎年7200円で済むことになる。1回だけではなく、今後もずっと毎年の税額が違うので累積金額で考えると大きい。後々中古車として売るときも、税額の有利さが査定に影響してくる可能性は高い。

 つまり軽自動車の躍進は、サイズと動力性能が実用上問題ないところまで引き上げられた一方、維持費がさまざまな面で有利だったため、トータルでのお買い得感が非常に高かった、というのが理由だった。今回、その安い維持費の中心的存在である税金が引き上げられることになった。

 こうなると、4月以降も新車の軽自動車が販売好調だと予想する人はいないだろう。メーカーもそんなことは分かっている。そもそも今回の軽自動車税の引き上げは、一回で終わるかどうかが分からない。シェア比率40パーセントに達した軽自動車の現状から考えて、今後もこれまで通り例外的に安い税額を設定していくのは難しい。再度の引き上げも十分考えられる。

 今後、「維持費の有利さ」がなくなる見込みの中で、軽自動車メーカー各社はどのように戦っていくつもりだろうか?

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