北近畿に異変アリ! 異業種参入のバス会社が鉄道事業を託された理由杉山淳一の時事日想(4/4 ページ)

» 2015年03月20日 08時00分 公開
[杉山淳一Business Media 誠]
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 ウィラーアライアンスによると、安全施策に関する提案内容は次の5項目だ。

(1)安全管理に関する規程やマニュアル等の再点検を実施し、その内容の周知を徹底する

(2)全車両の運転席にドライブレコーダーを設置し、異常事象等について日常的に解析する

(3)「安全評価外部委員会」を設置し、高度な専門的立場からの指導・評価を定期的に受ける

(4)教育・訓練の充実のため、研修プログラムを策定し実施する

(5)警察、JRその他の関係機関との合同による安全訓練等を、引き続き実施する

 ウィラーアライアンスの5項目には重みがある。高速路線バスが「ツアーバス」と呼ばれていたころの、数々の事故の教訓が生かされているからだ。

ウィラーアライアンスの提案内容まとめ。北近畿タンゴ鉄道が記者発表会で配付した資料 ウィラーアライアンスの提案内容まとめ。北近畿タンゴ鉄道が記者発表会で配付した資料

 ツアーバスは貸切バスを使用し、募集型企画旅行として運行されるバスだ。しかし、インターネットなどで募集して、チケット(クーポン)はコンビニの端末やPCからの印刷で発行可能。いくつもの定番コースを設定する「疑似路線バス」が急速に広まった。

 疑似路線型のツアーバスは、さまざまな規制を順守して運行された乗合路線バスに対して「脱法(路線)バス」と揶揄されていた。しかし、もちろん当時の法律には抵触せず、既存の法律の範囲内でITインフラを活用した新しい形態とも言えた。疑似路線型のツアーバスは低価格で人気を集めた。

 一方で、価格競争が激化した。運行会社の下請け、孫請けが横行し、運転士の疲労などを原因とする死亡事故が多発した。特に2012年4月29日に関越自動車道で起きた高速バス「ハーヴェストライナー」の居眠り運転事故は、乗客7人が死亡、39人が重軽傷という大事故だった。旅行実施会社はハーヴェストホールディングス、バスの運行は有限会社陸援隊。運転手は日雇い同然で、無許可で貸切バスを運行する白バスの前科があった。

 この事故や、その前後に起きていた事故などの教訓から、ツアーバス関係各社と国の両面から改善への取り組みが行われた。ツアーバス関係各社側は停留所問題の解決に動く一方で、安全管理面の強化を行った。国は路線バスの停留所設置義務や路線の届け出期間などを規制緩和した。

 また、バスの孫請けを防ぐため、旅行会社と貸切バス会社の受託については国の許可を必要とした。疑似路線バスは一般乗合旅客自動車運送事業の許可が必要となり、新しい乗合バスとなった。

 ウィラーエクスプレスはツアーバス大手の責任として、停留所問題や安全問題に積極的に取り組んだ。運行業務では国の指導以上の安全ラインを設定した。その経験が安全管理の科学化という理念につながっている。鉄道も数々の悲惨に事故から学び、安全対策を続けてきた。バスも同じだ。赤字を解消し、いかに利益を上げるか。しかし、安全面をないがしろにしてはいけない。

 地域活性化、観光強化も大事だ。しかし、北近畿タンゴ鉄道はウィラーアライアンスの安全施策も高く評価したに違いない。それが地に足の着いた鉄道運営というものだ。



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