印象だけ高性能でも――自動車メーカーの罪深い「演出」池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)

» 2015年03月05日 09時30分 公開
[池田直渡,Business Media 誠]
Windows 7版のマインスイーパ

 Windowsのおまけゲーム、「マインスイーパ」をご存じだろうか。グレーに目隠しされた8×8マスを順にクリックしていき、地雷が隠されているマス以外の全てをオープンすれば勝ち、というパズルゲームである(編注:Windows Vista Businessなど、プリインストールされていないバージョンもあります)。

 このゲーム、どうしたわけかマスがとても小さかった。同じくWindowsアクセサリーの「電卓」くらいのサイズの中に8×8マスが収まっていて、筆者のノートPCだと、ひとつひとつのマスは画面上で5mm角くらいだった記憶がある。

 だからマウスのカーソル移動速度を速くしてあると、自分の持っていきたいマスへ上手くカーソルを持っていけない。むしろ、ちょっと遅めのセッティングにした方がプレイしやすかった。ただし、あんまりスローにしてあると、ゲーム以外の操作、例えば画面の端から端までカーソルを移動するような時は、マウスを大移動しなくてはいけないので不便だった。アプリケーションごとにマウスの設定を変えるユーティリティを使ったりしたものだ。

 「クルマの原稿なのに何でゲームの話?」と疑問を持つかもしれないが、今回は操作に対する反応速度とリニアリティ(線形性)の話をしたいのだ。要するにマインスイーパの時はゆっくり動いて、画面を横断するような時は速く動くカーソルセッティングが使いやすかったよね。という話なのだが、クルマの場合はそれがいろいろとおかしいのだ。

線形と非線形

 クルマの世界でよく言われる言葉のひとつに「非線形セッティング」がある。まずこの言葉の説明からしよう。「線形」の最も典型的なものは「比例」である。横目盛を1進めると縦目盛も1進む。これが起点のゼロからずっと同じ傾きで進む。リアルな世界には当然閾値(しきいち)があるから、おのずと上限があるが、その範囲においては線形。

 こういうものは変化がつかみやすい。だがこの変化率が途中で変わると、人間は変化がつかみにくくなる。例えば横目盛でゼロから5までは傾きが10なのに、5を境に1になるとすれば、5のところで感覚の補正をしなくてはならない。

 クルマの「非線形」で一番メジャーなのはアクセルだ。アクセルを踏んだ途端グーンと力強く加速すると、ドライバーは「おお、このクルマ速いな」と思う。踏んでもじんわりとしか出ないと「あれ、思ったより遅いな」と思う。

ルノーエンジンを搭載した1983年のロータス94T。カムカバーにはルノー・ゴルディーニのロゴが光る。高出力を狙ったターボエンジンは、過給圧の高まりとともにレスポンスもパワーも変わるため、線形にはならない。レースに勝つために許される特性だ

 自動車メーカーはこの「出足が速い」ことの演出に非線形スロットルを使うのだ。ディーラーの試乗コースはほとんどが市街地だ。試乗する時にちょっと空いた道路でアクセルを踏んでみて速さに感心して買ってしまう。

 しかし、そのクルマを毎日使うとすればどうなるか? 速いクルマを買ったつもりで、高速道路でアクセルを目いっぱい踏んでみる。停止からの加速はグーンと力強かったはずなのに、そこから先は案外大して加速しない。「アレッ?」と思う。次に、渋滞にはまったとする。前のクルマがちょっと動いた。クリープだけではかったるい距離を詰めようかとちょっとだけアクセルを踏むと、グーンと進む……これでは乗りにくいこと甚だしい。

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