エンジニアを管理職に リクルートテクノロジーズ社長が手掛ける“私塾”とは?社員からも好評(2/2 ページ)

» 2015年03月05日 08時00分 公開
[伏見学,Business Media 誠]
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9カ月で18冊

 では、中尾塾ではどのようなことを実施するのだろうか。1期あたり9カ月間で、定員は15人。最初にオリエンテーションとして集合研修を行い、学習の必要性やマネジメントスキルを習得する目的などを共有する。そのほか、架空の役職などになり切って制限時間内にビジネス課題を片付けるという「インバスケットゲーム」を行い、自分の強みや弱みを把握する。

 受講者全員が一堂に会すのは初回の2時間だけ。それ以降は全18冊の課題図書を2週間に1冊読み、同社のイントラネット(通称「CoCoらぼ」)に各自が感想と仕事での活用方法を1枚のパワーポイントにまとめてアップロードしていく。狙いは本を読んで物事を学ぶ習慣をつけることである。これは中尾氏が年間100冊以上の本を読み続けている中で確信したことで、本にはマネジメントに役立つヒントが溢れているのだという。

 課題図書は主にビジネス書で、デール・カーネギー著「人を動かす」や、エリヤフ・ゴールドラット著「ザ・ゴール」といった名著を中心にラインナップされている。アップロードされたファイルに対しては、中尾氏が1つずつ丁寧にコメントする。

 中尾塾の成果は出ているのか。1つに、社員一人一人の人間性を知ることができるという。

 「全部で18回も行うのでごまかしがきかず、納期に対する考え方が如実に表れる。優秀だと評判の社員は間違いなく納期を守る。また、明日からでも実践できるような具体的な内容が書かれている。この取り組みによって、次の管理職候補がとても明確になった」(中尾氏)

 現在、中尾塾は4期目に突入しているが、幸いなことに落第者はほとんど出ていないという。その要因として、人事評価には影響しない研修であるものの社長自らが主催していることや、受講者のアウトプットがイントラネットで公開されることで全社員が閲覧可能であるため、受講者は緊張感を持って取り組むことができるからだという。

すべての社員に機会を与える

 なぜ中尾氏はこうした社員教育を行うのか。そこには「すべての人は成長できる。人材育成は最も投資対効果が高い」という考えがあるからだという。またそれは自身の体験にも関係している。

 中尾氏がリクルートに入社したのは1989年。創業者である江副浩正氏の言葉である「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という社訓の下、当時は人材を大量に採用し、自ら動かない人間は自然と淘汰されるという考えが根付いていた。そうした環境で、中尾氏は日々奮闘してきたわけだが、「少しでも機会を与えられれば花開いた社員もたくさんいたのではないか」と振り返る。

 また、中尾氏自身は「上司に恵まれた」と言う。人事異動が多く、さまざまなタイプの上司を持つ機会を得た。そこで学んだこと、教えられたことが今の中尾氏を形作っているといっても過言ではないという。

 「かつては次々に大量採用すればいい時代だったかもしれない。しかし今は会社にマッチする人材を採用し、丁寧に育てることが大切だ。それが結果的に会社の成長にもつながるのだ」(中尾氏)

 マネジメント力の高いエンジニアを育成する――。リクルートテクノロジーズが掲げる「世界トップレベルのITサービス」を実現するためにも、今後この取り組みはさらに加速していくだろう。

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