この兄弟とは政治的主張は正反対だが、2011年7月にノルウェーで発生した連続テロ事件は「ネットが生んだ単独犯テロリスト」としてはまったく同じ性質が同じである。
このテロでは、首都オスロの政府庁舎に仕掛けられた爆弾で8人が死に、約40キロ離れたウトヤ島のキャンプ地で銃が乱射され、69人が死んだ。逮捕されたアンネシュ・ベーリング・ブレイビク(当時32歳)は「反移民受け入れ」「半多文化主義」「反イスラム」などを主張する極右、キリスト教原理主義者だった(2012年8月、禁固最低10年最高21年の判決を受け服役中)。
爆破に使われたのは、肥料を原料とする「アンホ爆薬」である。肥料として入手できる硝酸アンモニウムに軽油を混ぜて作る。犯人は爆弾製造のための爆薬や化学肥料入手のために鉱山会社と農場を購入、犯行の2カ月前に肥料6トンを購入して爆弾を製造した。重さ950キロの爆発物がクルマに積まれ政府庁舎前に仕掛けられた。銃はスポーツや狩猟用として免許を取って入手していた。犯人がこのアンホ爆薬の作り方を教わったのは、ノルウェーのネオナチ団体のWebサイトだった。犯人が数日前に犯行予告をしたのはTwitterだった。自らのWebサイトには、自らを「テンプル騎士団」と名乗る「殉死作戦」を公表した。
まったく組織的背景なし。テロの背景になる思想や攻撃方法はネットで覚えた。犯行予告や犯行声明、政治的主張もネットで公表する。前回本欄で書いたような、新聞・テレビといった旧来型マスメディアはまったく出る幕がない。「インターネット完結型」のテロリストなのである。
ブレイビクの父親は経済学者で外交官、母親は看護師だった。1歳のとき両親が離婚。母と異父姉(いふし)と育った。非行グループに入り、夜中に町中をうろつき、16歳の時、スプレーの落書きで逮捕された。大学は中退して顧客サービスの仕事についた。両親が支持したノルウェー労働党(中道左派で移民受け入れ政策)を嫌悪していた。銃撃したウトヤ島では、同党のサマーキャンプが開かれていた。
ここでも、テロ犯はもともとは狂信的な政治思想信者ではなく、社会から疎外され、挫折感と敗北感を抱えた若者だったことが分かる。その社会への怨恨や攻撃衝動をテロという形で爆発させることに「極右」「排外主義」「反移民」「反イスラム」という理由や動機を与え、爆弾製造という方法を教えたのはネットだった。
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